さよならを教えて 〜Comment te dire adieu〜
昨日の珠海樓での会食でちらりと話題にのぼっていた(株)アディドバリューは、非上場の「同族企業」である。
創業以来、経営戦略を担当する久城家、経理を担当する万里小路家、そして研究開発を担当する星野家が三割ずつ株式を持ち合い、三頭体制でやってきた。
(ちなみに残りの一割を保有しているのは、メインバンクのあさひJPN銀行である)
——確か、幸生さんはそのうちの「星野家」の長男だったのよね……
彼の両親はかなり昔に離婚し、下の弟の龍生さんだけが唯一引き渡しを許されたので、母親とともに家を出たと聞いている。
そのため、彼だけが母親の旧姓である「及川」だ。
その後父親が再婚して、新しい妻との間に双子の女の子が生まれたらしい。
彼ら三兄弟にとっては、一回りほど歳の離れた妹たちだ。
長男である幸生さんが後継の「御曹司」であることに、揺らぎはなかった。
しかし、幸生さんはうちの母と「出逢って」しまった。
親子ほども歳が違うため、星野一族だけでなく久城家からも万里小路家からも猛反対に遭った彼は、御曹司の座をそっくりそのまま上の弟の蒼生さんに丸投げし、星野という名前もろともかなぐり捨てた。
なので、彼は今では「及川 幸生」と名乗っている。
今の彼は「主夫業」の傍ら「絵師」の仕事をしているという。
わたしにはよく判らないが、どうもネットにイラストを投稿することでアフィリエイトなのか何なのか、とにかくお小遣い程度を稼いでいるらしい。
もともと、代々の家業である工場の製造過程のオートメーション化に関する自動制御機器なんて、まーったく興味が湧かなかったのだそうだ。
(幸いなことに新御曹司の蒼生さんはバリバリの理系らしい)
——うちのおかあさんが、がっぽり稼いじゃってるからね、生活には困らないよね。
最近、ふと観たテレビの情報番組で「ご意見番」として母が神妙な顔つきで鎮座していたからびっくりだ。
それにしても、夫が弁護士で妻が主婦業の傍ら絵師をしている、と聞くとまったく問題ない話なのに、「逆転」するとモヤッとするのは社会的性差だよな……
元やんごとなきお方だって、夫がキュレーターで安定した職を持って経済的な支えとなり、妻が夢であるNY州の弁護士を目指して何度も挑戦している、という構図であれば、あんなにもバッシングを受けることはなかったであろうに……
(まぁ、男性だったらそもそも「やんごとなきお方」のままだったけれども……)