さよならを教えて 〜Comment te dire adieu〜
実家の門扉の前でタクシーが停まる。
わたしはApple Payで決済すると、運転手さんに礼を言って車から降りた。
(一応「所長」である父からの呼び出しだから、経費の決済用として支給されているクレジットカード「あさひJPN ビジネスプラチナ」で支払っておいた。休出の「交通費」としても認めてもらえるかもしれない。二メーターほどの金額だけどね)
この辺りは都内でも有数の「高級住宅街」と呼ばれていて、立派な邸宅が立ち並んでいる。
(実家に住んでいた頃は「日常風景」だったが、離れた今となってはやはりすごい界隈に住んでいたんだな、としみじみ思う……)
何気なく隣家をちらりと見た。
やはり豪奢な佇まいをしている。
そこは(株)あさひ証券の重役のお宅で、門灯は自動設定なのか煌々としているものの、家の中は真っ暗でまるで人の気配がなかった。
——上條さん家は、まだ大阪勤務なのかなぁ……
実家の門扉の前でインターフォンを押す。
『……はい?』
「遅くなりました。光彩です」
『今すぐ開けるわ、待ってて』
そう声が返ってきたかと思うと、すぐさま玄関の扉が開いた。
「光彩ちゃん、お帰りなさい」
エプロン姿の冬美さんが、ぱたぱたと外に出てきた。
——父の奥さんである。