さよならを教えて 〜Comment te dire adieu〜

「ヤツは血も涙もない、その『人造人間(サイボーグ)の田中』で間違いないさ」

茂樹は、うんざりした口調で言った。


「もおっ、諒くんったら……人前では恥ずかしいからやめてよっ」

彼女の方は、さすがにイヤがっているように見えるが……

「ななみんが、かわいすぎるからだろ」

田中くんはまったく意に返さず、今度は彼女のくちびるを狙っているようだ。


「う、うそ……でしょ……?
『ななみん』に『諒くん』呼びって……?
あの田中くんが……バカップル……?」

わたしは呆然としてしまった。

「ここに来たら『諒志のおもしろいもんが見られる』って言っただろ?」

田中 諒志は、茂樹が高等部から編入した「御三家」の一角を占める名門男子校時代からの親友だ。
同級生の中でも群を抜いて頭脳明晰で、T大の法学部を卒業後、国家一種試験をパスして金融庁に入ったキャリア官僚である。


「それで、彼女……水野(みずの)さんはおれの直属の部下だ」

「ええっ、じゃあTOMITAホールディングスの秘書室に勤務してるってこと?
まさか……茂樹が田中くんに『紹介』したんじゃないでしょうね?」

「それこそ、まさかだ。おれだって、つい先刻(さっき)知らされたばかりだぞ。
水野さんの父親が、偶然にも諒志の上司の金融庁キャリア官僚らしい。
それで、いつの間にか見合いして、あんなふうになっちまってたんだよ」

「あの二人、お見合いで知り合ったっていうのに、あんなにラブラブって、すごいっすね……」

若い翔くんですら、生温かい目をして二人を見つめている。


——「お見合い」でこんな超バカップルまるだしになれるなんて、ある意味「運命の出逢い」だよね……

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