さよならを教えて 〜Comment te dire adieu〜

「え……っと……その……これは……その……」

水野さんの顔色が、さーっと青ざめていく。

「大丈夫だ、ななみん。怖がらなくていい」

田中は水野さんの両頬を、その大きな手のひらで、すっぽりとやさしく包み込んだ。

「おれの同期で証券取引等監視委員会(うち)の取引調査課にいる本宮(もとみや)ってヤツに、そいつをインサイダー取引の疑いで査察させるから」

そして、背筋がカチンコチンに凍りつくほど、冷徹な笑みをうっそりと浮かべた。

「りょ、諒くん……?」

「もし本宮がしくじったら、今度は特別調査課のおれが、そいつをどんな手を使っても摘発してやるから……心配するな」

——田中くん、それって完全に職権濫用だよね?冤罪を生みだそうとしてるよね?

民事専門とはいえ弁護士のわたしは、どうか見間違いであってほしい、と思って翔くんを見た。

すると、なぜかひたすら無心にバカラを磨き続けていた彼が、ゆっくりと首を左右に振る。
どうやら「バカップルにつける薬なし」ということらしい。


「ななみんを苦しめる、そんなクズ野郎は……
このおれが、社会的に完全に抹殺してやるから」

田中くんは地の果てから不気味に這い上がってきたかのような声で、ささやいた。

「うーん……彼らの同期で総務課にいる、うちのおねえちゃんに言えば……大事(おおごと)にならないうちに止めてくれるかなぁ……」

水野さんは死んだ魚のような目をして、そうつぶやいた。

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