さよならを教えて 〜Comment te dire adieu〜
「ちょっと、茂樹……あら、やだ、どうしたのよ?」
ふと隣を見ると、つい今しがたまで仕事モードの口調でしゃきっとしていたはずの彼が、見るも無惨にカウンターに突っ伏していた。
そういえば、わたしと違って決して呑める方ではないのに、めずらしく結構呑んだ形跡がある。
——先刻、水野さんが『最近、失恋したらしい』って、言ってたしな……
わたしはビアグラスに残るホワイトエールを、くっ、と呷った。
「あーっ、進藤先生、もしかしてエールビールですかっ?」
ふたたび、田中くんを振り切ったのであろう。
水野さんが尋ねてきた。
——田中くんの不気味なまでに重っ苦しい「圧」から逃れたいのかもしれない。
「ええ、そうよ。あなたもエール派かしら?」
彼女に助け舟を出してあげることにした。
「はい、あたしは今パスベールを呑んでるんですけど……先生は何ですか?」
パスベールは、イギリス王室御用達の赤っぽいエールビールだ。
「へぇ、そうなんだ。わたしのは、グランドキリン ホワイトエールよ」
「ええっ、国産ですか?
サントリーの香るエール以外にもあるんだー」
「プレミアムモルトのも美味しいけど、わたしはグランドキリンの方が好きね」
バスベールも美味しいけれども、やはりビールは鮮度が命だ。
輸入物はどうしても輸送時間が長くなるから、現地で呑むよりもずっと味が落ちてしまう。
「……進藤、いつまでななみんと喋ってるんだ」
——うっわぁ……
ヤンデレ大魔王・田中が降臨しやがったよ……