さよならを教えて 〜Comment te dire adieu〜
「えっ、だったら別にわたしじゃなくても、例えば斎藤さんとか……」
「それが、菅野先生に拒まれちゃったのよ。
わたしだって、千葉先生がうちに慣れるまでとは言え、あなたを手放したくないっていうのに」
向井の同期のパラリーガル・斎藤 いづみは、先輩弁護士の菅野 誠彦先生に付いていた。
「これから、よろしくね。……向井さん」
すかさず、千葉先生が爽やかな笑顔で言う。
すると、その笑顔に釣られたのか、向井がうんうん、と肯く。
「あぁっ、向井さん、ありがとう!助かるわ!」
わたしは思わず歓喜の声をあげた。
「いやっ、あのっ、その……」
向井の頬がポッと赤くなっている。
——イケメンは正義、だな。
「あなたが引き受けてくれて、僕もうれしいよ」
千葉先生の笑顔が全開になった。
「ありがとう。……向井 真未さん」
歯並びの良い真っ白な歯がキラキラっと輝く。
——さすが、アメリカ育ち。完璧に歯科矯正してる。
「千葉先生、期待してるわよ。うちの事務所のためにがんばってね。……じゃあ、向井さん、先生をブースに案内してあげて」
わたしは、ひらひらと手を振った。
今のところ空きブースは一つしかないのでわかるだろう。
「進藤先生、これからお世話になります。
お忙しいところ、ありがとうございました」
——千葉先生の敬語、全然問題ないじゃん。
そして、千葉先生は一礼して出て行った。
向井も会釈すると、あわてて千葉先生のあとを追って行く。
それからわたしは、すっかりスリープ状態になっているであろうMacBook Airに戻った。