さよならを教えて 〜Comment te dire adieu〜
——そ、そんなの知らない……
確かに、菅野先生はうちの事務所の若手ホープとして多種多様な案件を抱えているため、わたし以上に忙しい人だった。
「たった今、お話を伺ったばかりなので、一旦持ち帰って検討したいのですが……」
わたしは辛うじて答えた。
「新プロジェクトは今月から本格的に始動していて、外注先のシステムインテグレーターとの契約に関して、早速法的なアドヴァイスを受けなければならない案件が出てきているんですよ」
茂樹はさらに畳みかけるように言う。
——だから、そんなの知らないしっ。
それに、あんただって弁護士じゃんよっ。
「……島村、待て。あわてるな」
副社長が落ち着いた低い声で茂樹を制した。
「進藤先生、突然の申し出にとまどわれるのは当然です。ぜひ持ち帰って検討してみてください。
それでもし、その菅野先生に担当していただけるのであれば、私も一度お会いしてお話ししてみたいですしね」
さすが、副社長。臨機応変に茂樹への「手綱」を加減してくれる。
「ありがとうございます。こちら側としても早急に結論を出しますので……」
——とにかく、至急菅野先生にアポを取って、この件を話さなくっちゃ。
わたしは手元のiPad Airで共有スケジュールのアプリを開き、本日の彼の予定を確認する。
——菅野先生、今日中に捕まるかなぁ……
すると、そのとき——
「……お話し中、失礼いたします」