さよならを教えて 〜Comment te dire adieu〜
シンプルなデザインながらも、いかにも生地と仕立ての良さそうなチャコールグレーのスーツを着た女性が、わたしの前に淹れたての熱いコーヒーを差し出す。
とたんに、無機質な会議室にコーヒーの芳ばしい香りが漂う。
それに、ちょうど会議中に飲んでいた三五〇ミリリットルのペットボトルのお茶が切れたところだったので、うれしい。
「あ、恐れ入ります」
わたしは、iPad Airに目を落としたまま会釈する。
——副社長付きの秘書さんかな?
わたしはiPad Airから目を上げた。
——えっ、この人……ハーフ?
少なくとも、クォーターではあるよね?
一七〇センチ近い長身のその女性は、ウェーブのかかったオリーブブラウンの長い髪を後ろでふわりと束ね、ピンクがかった真っ白な肌に、ハッキリとした目鼻立ちで……
なによりその瞳の色が、光の加減で微妙に色彩を変えるヘイゼルアイだった。
続いて彼女は、優雅な所作で副社長の前にコーヒーを置いた。
「あぁ、Thanks……彩乃」
副社長が彼女に礼を言う。
——えっ? 「あやの」って名字じゃないよね?
そして、最後に茂樹の前にコーヒーを置いた。
「ありがとうございます。朝比奈さん」
——あっ、わかった!
この女性、富多副社長の婚約者だ。