さよならを教えて 〜Comment te dire adieu〜
この女性が、このGWに富多副社長と結婚式を挙げる朝比奈 彩乃さんか……
なるほど、我が国を代表するメガバンクである「あさひJPNフィナンシャルグループ」の社長令嬢だけあって、麗しいだけでなく育ちの良さから醸し出される気品もあった。
わたしはひとくち、コーヒーを飲んだ。
「……あぁ、美味しい。ちょうど、ひと息入れたかったから、タイミングもバッチリ」
プレゼンからずっと緊張が続いていたので、心がほっこりとする。
「あたりまえだ。朝比奈さんだからな」
茂樹がぼそり、と言う。
——あら、先刻までの「お仕事モード」のお堅い口調はどこ行った?
「……おい、茂樹。いい加減にしろ」
副社長がミーティングテーブルに頬杖をついて、うんざりした顔をしている。
めずらしい……っていうか、初めて見た。
——おおっ、この人も「プラベモード」?
「進藤先生とやり合って、法務部のヤツらを凍りつかせてるって聞いてるぞ」
——えっ、副社長ったら、そんなことまで知ってるのっ⁉︎
「ふふっ」
朝比奈さんが、思わず噴き出すように笑った。
コーヒーの匂いに慣れたわたしと鼻に、彼女からグラースローズだろうか、馥郁としたエレガントな香りがふわりとやってきた。
——ミス・ディオールだったかな?
「あ、進藤先生、失礼しました」
朝比奈さんが嫋やかに頭を下げた。