さよならを教えて 〜Comment te dire adieu〜
彼——及川 龍生くんは、まだ二十五歳と若いが、映像や活字メディアなどで女優さんやモデルさんから最近スタイリングのご指名がかかるようになってきた、新進気鋭のアートディレクターである。
「忙しいのに、突然予約入れちゃってごめんね」
しかも、全身コーデまでお願いしてしまった。
「せっかく用意してくれたから、ワンピは全部いただくわね」
隣のショッピングモールのエリアにあるショップで探して、わざわざここまで運んできてくれたのだ。
「いえいえ、いいんですよ。
それに……ワンピースも全部購入していただかなくても結構ですよ。
ぶっちゃけ、光彩先生にお似合いになる色と型は三着だけなので、そちらだけご購入ください。
でも、この三着は絶対にお似合いになりますから、押しつけてでもワードローブにしていただきますからね」
龍生くんはわたしの髪を丁寧な手つきでブローしながら、そう言って破顔した。
「いつも思うんだけど……すごくビビッドな色よね。ほんとにこんな鮮やかな色、わたしに似合うのかしら?」
「光彩先生のパーソナルカラーはウィンターですからね。ハッキリとした発色の良いカラーであればあるほど、不思議とお顔映りが良くなりますよ」
実のところ、わたしの好きな色の系統はアースカラーのような「自然色」なんだけど、龍生くんに選んでもらった「ド派手な色味」の方が、周りから「肌、キレイですよねー」とか言われて断然評判が良い。
「それから、光彩先生の骨格診断はウェーブですから、襟元が詰まっていてウエストの切り返しが高くて脚長効果が期待できるデザインのものをチョイスしました」
決して胸がないわけではないのだが(一応、Cカップだし)襟元がV字とかで大きく開いていると、どういうわけか貧相で寂しい感じになってしまうのだ。
あと、「脚長効果」はマジでうれしい。
ウエストラインが上だと、だれでも脚長に見えそうなのだが、他の骨格タイプだとそうでもないらしい。
骨格の違いによって、それぞれ重心が異なるからだそうだ。