さよならを教えて 〜Comment te dire adieu〜
こんなふうにおしゃべりしているうちに、龍生くんの手によって、すっかりヘアメイクが整った。
わたしは彼の激推しの三着の中から選んだワンピに着替えると、あとの二着は宅配便で自宅に届けてもらうように手配した。
「ほんと、いつもありがとう」
「いえいえ、こちらこそ……うちの上の兄貴をよろしくお願いします」
「こちらこそ……幸生さんにはいつも家事が壊滅的なうちの母のお世話をしてもらってて、ほんと助かってます」
実は、わたしの母のうんと歳下のパートナーというのが、龍生くんのお兄さんなのだ。
だから、そのお兄さんに紹介されてわたしはこのヘアサロンに来ることになり(職場からも激近だしね)龍生くんが担当スタイリストとなった。
『兄貴は向いてない家業から逃れられて、得意な「主夫業」をしているんです。ある意味、天職でしょうね』
幸生さんは家業を継ぐべく育てられたらしいのだが、うちの母と「事実婚」するにあたり、すべてを捨てて出奔した。
なので、龍生さんの下のお兄さんである蒼生さんが継ぐことになったらしい。
『もともと下の兄貴の方が会社経営に向いてそうな性格をしてるんです。
まぁ、僕は気楽な三男坊なので、最初から好きなことをさせてもらってますけどね』
初めて会ったとき、そんなふうに龍生くんは言っていた。