さよならを教えて 〜Comment te dire adieu〜

「……昔は『女三界に家なし』と言われてましたよね」

女は嫁ぐ前までは親に従い、嫁いだあとは夫に従い、そして夫に先立たれてしまえば子どもに従うものだ、という考え方だ。

要するに、女というものは何歳(いくつ)になっても「家」の中では身の置き所がない、という意味なのだが——


「いったい、何の話かしら?」

突然、話題を変えたわたしに彼女が鼻白む。


「わたしは男であれ女であれ生まれてきた以上、与えられた人生をどう生きるかは多様であるべきだ、と思っています。
なので、あなたが今までその半生を『家族のために』費やしてきたのは立派な生き方の一つであると考えていますし、また敬服もしています」

そして、わたしは彼女を真っ向から見上げた。

「ですが……『社会』は必ずしもそうは見ていないということです」


その瞬間、しっかりと手入れの行き届いた艶やかな彼女の色白の頬に、さっと朱が走った。

「あ、あなたっ……なにが言いたいのっ?」


「誠に残念ではありますが、今の世の中は専業主婦にとっては『女三界にカードなし』なんです」

わたしは彼女が円卓の上に置いた「あさひJPN ロイヤル プレミアム」を見ながら続けた。

「一般的にクレジットカードは、申請者の信用情報の履歴——いわゆるクレジットヒストリー(クレヒス)に基づいて審査され、承認されれば発行となります。
しかし、それはあくまでも『正会員』となった者の属性——つまり年収や社会的地位等の信用情報のみによるものです。
ゆえに、もし正会員が何らかの事由により会員でなくなった場合、家族会員はどんなにそのカードの継続を願おうと、その権利は停止され効力を失います」

たとえ「弁護士の妻」であろうと専業主婦に違いない彼女が持つこのカードは、まさしくその「家族カード」に他ならなかった。

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