この男、危険人物につき取扱注意!
「お、おい!」と呼ぶ春樹と、「待ってください!」と言う坂下の声など無視して、千夏は閉まっている襖を開け進んだ。
(居ないじゃん!この奥?)
閉まっている襖を次々に開け進む千夏に、組員達は唖然とすると同時に、一方で「クックック…」と下を向いて笑いを堪える春樹に、組員は驚きを見せていた。
「若っ!」
坂下の呼びかけにも春樹は応えず、挙句には腹を抱え笑い出してしまったのだ。
「やっぱっ、おもしれい」
囁く様に言った春樹の言葉に、首を傾げながらも「良いんですか?」と聞く坂下に「好きにされろ」と春樹は言った。
そして、突き進んでいた千夏の勢いは次第に落ち始めていた。
「まったく…この家…どんだけ広いのよ?ハァハァ…」
そしてようやく目にした、ひとり寂しく食事をする組長の姿。
(居た!)
「なんだ騒々しい!」
千夏は組長の姿を見つけると、直ぐ様正座をして挨拶した。
「おはようございます!
昨夜は、まともなご挨拶も出来ませんで、失礼しました。なので改めてご挨拶に伺いました!
この度御縁があり、春樹さんと結婚する事になりました小野田千夏と申します!
末長く宜しくお願いします!」
(期間限定の結婚なのに、末長くって言って良いのかな…?
まぁ、良っか?)
「へぇ、昨夜は怯える子ウサギの様だったが、今朝は随分肝の据わった目をしてるじゃねぇか?」
昨夜とはまるで違って、怯える様子を一切見せない千夏に、組長は頷くと同時に「分かった」と言った。
「有難うございます!」
千夏はそう言うと、急ぎ皆んなの待つ食卓の場へと戻った。そして、自分の茶碗と焼き魚を持って、再び組長の元へと戻って来た。
「今度はなんだぁ⁉︎」
怒りを露わにする組長に、千夏は臆すること無く「私もここで食べて良いですか?」と聞いた。
(良いですかって、もう持って来てるんだけどね?)と千夏は思いながらも、拒否されたらと心配はしていた。
「ダメだ!
向こうで皆んなと食え!」
(やっぱりね…)
「良いじゃないですか?」
「ここはお前の家じゃない!
勝手な事はするな‼︎」
組長の低い声に恐怖を感じる千夏だが、勿論、1度や2度断られたくらいで諦める千夏では無い。
「私の家です!」
「何だと⁉︎」
「私は春樹さんの妻です!
春樹さんは昨夜、此処に住むと言いました。
と、言う事は私の家でも有ります!」
千夏は真っ直ぐ組長の目を見てそう言い切った。
すると組長は、側に合ったブザーを押し坂下を呼びつけた。
(あーやっぱりダメだったか…)
直ぐに駆けつけた坂下に、連れ戻されると思った千夏だったが、組長から出た言葉は思いがけない言葉だった。
「この煩い娘の飯を、ここに運んで来てやんな!」
「え、いいの?」
「このままじゃ、いつまで経っても飯が食えねぇだろ?」
(やったー!)
組長の言葉に驚きを隠せない坂下だった。
そして、呆然とする坂下の耳元で、千夏は“頑張るからね!”と囁いた。