この男、危険人物につき取扱注意!
坂下に運んでもらったお膳は組長の斜向かいに置かれており、納得のいかない千夏はそれを組長の向かいに置き直した。
「こっちの方が良いですよね?
お互いの顔見て食べれるし?」
「…出て行け」
「え?」
「っ出て行け‼︎」
何が気に入らなかったのか、組長は急に怒り千夏の後ろ襟を掴むと、そのまま部屋の外へと放り投げ出したのだ。
そして「二度と、この部屋の敷居をまたぐな‼︎」と言い放った。
顔を歪め憤然とする組長の姿に、震え慄く千夏はそのまま動く事も出来ず、坂下に声を掛けられるまで呆然と座り込んでいた。
「大丈夫ですか?」
「…あの…私…」
(何がいけなかったの…
何を怒らせちゃったの…分からんないよ…)
恐怖と困惑に溢れ出す涙。
止めたくても溢れる涙に千夏自身が驚いていた。
「…さ…坂…下…さん…わたし…」
どうしたら良いのか分からなくなってしまった千夏は、坂下に下り泣いた。
震えながら涙を流す千夏を、坂下は抱き抱える様にして立ち上がらせると、春樹の元へと連れて行った。
組長と食事してる筈の千夏が、涙を流しながら坂下と戻って来た事に、その場に居た全ての者が驚いていた。
「おめぇらいつまで食ってやがる⁉︎
とっとと食って、仕事に行かねぇか‼︎」
声を荒げる坂下に、食事の終わっていた者もまだ終わっていない者も、驚き慌てる様に食器を片付け各々の行くべき所へと消えて行った。
そして、組員の姿が消えるのを待って、春樹は千夏の手を取り引き寄せると、自分の傍に座らせた。
「うさぎどうした?」
春樹の問い掛けに、なにも言わずただ首を振る千夏。
そんな千夏に、春樹は子供に話聞かせる様に優しくゆっくり話しだした。
「うさぎ…これは、お互いの利益の為の結婚だろ?
うさぎが辛い様なら、このまま続ける事は出来ない。今すぐ契約は解消しよ?」
(今…関係を解消したら、チーフの思いが実らなくなるかもしれない…
今はまだ解消する時期じゃない。
極道の世界に飛び込んだ時点で、こんな事は予想出来た筈。
こんな事くらいで逃げたりしない!
背中を見せたら負けだ…
私はまだヤレる!)
今までになく優しく話す春樹に、思わず泣きつき頼りたくなった千夏だが、思い直して涙を拭って笑った。
「大丈夫。なんでもないです!
ちょっと、巫山戯たらお父様に怒られちゃって…
やっぱり本物のヤクザは迫力ありますね?
流石の私も驚きました。
でも、私が敵に後ろを見せる様な弱い女じゃないって知ってるじゃ無いですか?」
笑ってそう話す千夏を、春樹は抱きしめた。
(え?)
「チ…春樹さん?」
「…あ、ごめん…」
「なんで春樹さんが謝るんですか?」
「………」
千夏は、春樹をから離れるとお腹が空いたと言って、その場を離れていった。