この男、危険人物につき取扱注意!
仕事に戻ろうと立ち上がった千夏を、春樹は本題が終わってないから座れと言った。
(本題って…なんだ?
あーもう偽装結婚の必要がなくなったって話か!
でも、チーフ達がそう言う関係じゃないなら…なんで偽装結婚なんて…それも私と…)
「……偽装結婚だが…」
「もう必要ありませんよね?」
「え?」
「だって、坂下さんとの事は誤解だった訳だし、組を解散させる為なら偽装結婚なんて事しないで、本当に結婚すれば良いじゃないですか?
お見合い話も有るそうじゃないですか?」
「見合い…?」
「幹部の方々からウチの娘を若頭にって…?」
千夏は、達也や真司から聞いた見合いの話をした。
「好きでも無いのに結婚出来るかよ?
他に居るって言うのに…惚れてる女が!
確かに…紹介された事はある。
だが、自分の気持ちを押し殺して結婚しても、組を解散させる事は出来ないんだ。
奴等は次期組長の座を狙ってるんだからな!」
「組長の座…?」
「ああ、だから自分の娘を俺に差し出してくるんだ」
「差し出すって…
実の娘さんですよね?
いくら組長の座が欲しいからって…
娘さんの気持ちは?
他に好きな人がいるかもしれないじゃ無いですか⁉︎」
「そんなモノ関係ない。
本人達も小さい頃からそう育てられて来てるし、
寧ろ俺と結婚すれば一生贅沢出来ると喜んでるさ!」
「そんな…」
「だが、俺はお断りだ!
俺は惚れた女と結婚する!
そして、必ず組を解散させる!」
(好きな人がいるなら…
私なんかと偽装結婚しなくても…いいじゃない!)
「だったら…その人と結婚するべきですよ!」
「ああ、そのつもりだ!
だから、今日も指輪を買いに…」
「どうして私なんか連れて行ったんですか⁉︎
その好きな人を連れて行くべきでしょ!」
「…連れて行ったつもりなんだが…?
途中で逃げられてしまって…
結局指輪じゃなく違うモノを買う事になったがな?」
春樹がそう話すのを待っていたかの様に、ドアが開き坂下が入って来た。
そして、“遅くなりました”と言ってリボンがされた小さな小箱を春樹に渡した。
春樹は小箱を受け取り“ご苦労だったな”と言うと、坂下は“失礼します”と言って、また部屋を出て行った。
「うさぎ…受け取ってくれ」
春樹はその小箱を千夏の前へと置いた。