この男、危険人物につき取扱注意!

社長室を後にした千夏は急ぎ部署へ戻ると、無言のまま自分の席に座り、ひたすら仕事に打ち込んだ。
だが、どうしても社長室での事が気になる様で、時より溜息を吐いては“無理無理”と呟き頭を振っていた。

(婚姻届を出したって事は…
マジでチーフと夫婦…?
そりゃーね、いっときは覚悟も決めたけど…
あの時と今とでは話が違うじゃない?

やっぱり婚姻無効の申請を…
でも…達也さんと真司さんは…ガッカリさせちゃうよね…
病気の組長さんの事も心配だしなぁ…
…はぁ…このままヤクザのお嫁さんに…なっちゃうの…
でも…私の思い描いていた恋愛は?
素敵な男性に告白されて…デートして…
もう何よ‼︎
私の思い描いていたものが台無しじゃない⁉︎
私がチーフの惚れた女⁉︎
まともに好きとも言われてないし、さっきだって遠回しに言ってるだけじゃない⁉︎
好きなら好きって、ハッキリ言うべきじゃない⁉︎
ホント、男らしく無いんだから‼︎
それでも腹黒蛇組の若頭なの⁉︎
…あれ…私なんに対して怒ってるんだ…?)

「小野田さん、大丈夫ですか?」

声を掛けたのは嶋田だった。

(えっ⁉︎し、嶋田君⁉︎)

「えっ?あ、え、う、…なっなにか言いました?」

嶋田の呼びかけにやたらと動揺する千夏を、嶋田は不可解な面持ちで再び“大丈夫ですか?”と聞いた。

「…え?ええ、大丈夫、大丈夫に決まってるじゃない!」

千夏はそう言うと、嶋田へ無理に笑って見せた。
そして、“忙しい忙しい”と止めていた手を動かした。

(もう!
あんな事チーフが言うから、変に意識しちゃうじゃない!)

「チーフと何かありました?」

「えっ⁉︎」

嶋田の言葉に動かし始めていた千夏の手は止まった。

「なな、何にもないよ?
あるわけ無いじゃない…!」

「やっぱりなにか有ったんですね?
あの人に何言われたんですか?」

(え…?な、なんでわかるのよ?)

「ホント何も無いから、ほら、嶋田も仕事して?」

(私ってそんなにわかりやすいかな…
こんなに動揺してたら…駄目だよね!
仕事しにくくなちゃうもん)

「そんなに僕、頼りないですか?」

「えっ?」

「貴女はどんなに困っていても僕には何も言わない」

「え…」

「数日違えど僕たちは同期なんですから、困ってる事が有れば頼って下さい」

「えっあ…有難う…」

(びっくりした…告白でもされるのかと思った。
でも、こんなに彼が話すの初めてかも…)






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