この男、危険人物につき取扱注意!

洗面所で身なりを整えてると、“もういいか?”と玄関の方から春樹の声が聞こえて来た。

(え?ちょっちょっと!)
「勝手に入って来ないで下さいよ!」

慌てて玄関へ向かった千夏へ、春樹は少し首を傾げ目を細めながらこう言った。

「勝手にと言われても…確かここは俺の部屋だったと思うが?」

“俺が間違ってるか?”とでも言うかの様に春樹は千夏へ問いかけた。
春樹の言い分が正しいと分かっている千春は、何も言い返せず下を向いた。

(チーフの言う通りここはチーフの部屋。
でも…やっぱり来て欲しくなかった。今は…)

千夏は下を向いたまま、声を絞り出す様に聞いた。

「…な…なにしに…来たんですか?」

この部屋が春樹の部屋だと分かっていても、まだ心の準備が出来ていない千夏は、春樹と面と向かって話す自信も無く、今はまだ会いたくなかったのだ。

「これ無いと困るだろ?」

そう春樹に言われて、差し出されたのは2つの鞄だった。一つは携帯電話や財布、社員証が入ってる普段使いの鞄と、もう一つは着替えを入れて会社に置いている鞄だった。

「…ありがとうございます…
でも…今日は、休みを取ってますので…」

「ああ、秦から聞いた。
お母さんの付き添いだろ?
お母さんの体の具合はどうだ?」

千夏の養母である小野田梨華は、若い頃病にかかり長い間闘病生活を送っており、通院には必ず誰かが付き添っていた。
千夏が大学生になってからは、父や兄達の代わりに千夏が必ず付き添っていたのだ。

「…薬が効いてる様で、今のところは変わりない様です」

「そうか、それは良かった。
あ、ここコーヒーメーカーは有っても、豆とフィルターが無かったろ?」

春樹に言われて、キッチンカウンターへ置かれたコーヒーメーカーとへと視線を向ける千夏。
紅茶派だと言っていた春樹だが、そこには昨日と同じ様に花柄の可愛いらしいペアーのコーヒーカップも置かれている。

「…でも…私が使って良いんですか?」

「当たり前だろ?
うさぎの為に用意して置いたんだからな!
朝は必ず、目覚めのコーヒーを飲むって言ってたろ?」

(え?でも…私がここに泊まる事になったのは…)

「え…他の(ひと)の為じゃ…」

「ここへは誰も連れて来た事はないし、俺はうさぎ以外の為に何かしてやりたいとは思わない」

(じゃ…これは私の為に…いつから?)

「それで昨日の事なんだが…」

「ごめんなさい!
今は…その話したく無いです。
もう少し時間くれませんか…どうすべきか良く考えたいので」

「…分かった。
下で秦が待ってるから送って貰うと良い」

春樹の申し出を一度は断るが強い要望があり、千夏は春樹に従い秦に送って貰う事にした。







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