この男、危険人物につき取扱注意!

「うさぎ、なに溜息ついてるんだ?」


問いかけながら、千夏へ差し出されたコーヒーを受け取り見上げれば、高級そうなスーツを着たチームリーダーの木ノ下がそこに居た。


(おっナイスタイミング!)


いつも厳しい顔をして仕事してる木ノ下だが、時折こうして千夏にコーヒーを持って来てくれるのだ。


「その、うさぎって呼ぶの、いい加減やめてくれます?」

「なんで? 
うさぎは、うさぎだろ?」


千夏はこれまで二度、目を赤く腫らしてるところをこの木ノ下に見られていた。

一度目は、木ノ下と初めて会った日である。
木ノ下と会う前日、やっと手に入れかけていた内定先を兄達によって失ったあげく、その二人から突然の愛の告白。
就職先を失った悔しさと、大好きだった兄を失った様に感じた千夏は、悲しみで一晩中涙を流し目を腫らす事となり、それ以来千夏達兄妹の間はギクシャクする事となった。

二度目は、千夏の初出勤の日である。
初出勤の朝、千夏の就職を反対していた兄達二人から、就職祝いにとスマホとネックレスをプレゼントして貰った。プレゼントを貰った事よりも優しい兄達が戻って来たと、千夏は嬉し涙を流し目を赤くしたまま出勤した。

それを見た木ノ下は『お前はうさぎか⁉︎』とからかい、それ以来木ノ下は、千夏をうさぎと呼んでいる。


「何度も言ってますけど、チーフが私を名前じゃなく “うさぎ ”って呼ぶ事、良く思わない人や色々と勘ぐる人がいるんです!」

(こーやって私だけにコーヒー持ってくるし…
そりゃー、いつも受け取る私もどうかと思うけど…
チーフがコーヒーを入れてくれるのは、私のぬか漬けが目的であって、深い意味がない事を知ってる。
でも、周りはそこまで知らないんですからね!)


初めて二人が会った日、木ノ下は千夏の漬けたぬか漬けを気に入った様で、千夏の初出勤の日、ぬか漬けを分けて欲しいと千夏に頼んでいたのだ。
それ以来、時折り木ノ下にぬか漬けを渡しているのだ。


「勘ぐられて困る様な事、何もないだろ?」

勘ぐられて困る事…?
いや、困るよ!
すっごく困ってるからね!
色々と私の仕事に差し支えてますから!
それに気づかないって…あんたどんだけ鈍感なのよ!ってか、これ上司失格じゃない?





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