この男、危険人物につき取扱注意!

「はい、スポーツ部小野田!」

『小野田さんにご家族からお電話です』

(はぁ…
絶対、信兄だ…)


交換室からの無機質な声に違和感を感じながらも、千夏は大きな溜息をつき、そして鼻をつまんだ。


「もしもし、小野寺は只今席を外しておりまして…」

『千夏! お前だろ!?』

(やっぱりダメか…)


千夏は鼻をつまみ声を変えてみたが、千夏を溺愛する兄の信二には直ぐにバレてしまった。


「はい…」


千夏は、降参とばかりに体を小さく屈め、周りに聞こえない様に小声で話を始めた。


『なぜ、俺の電話に出ない⁉︎』


千夏は、兄からの電話には基本出ない様にしている。
煩くてて仕事にならないからだ。
仕事だけじゃ無く、合コンや婚活パーティーに参加してる時も絶対に出ない。
もし、そんなものに参加してる事が兄達にバレでもしたら、直ぐに迎えに来て強制送還されてしまうからだ。


『お前はいつになったら、家に帰ってくるんだ⁉︎』

(いつになったらって…)

「私、遊び歩いてるんじゃないからね!
仕事なの!何度も話したでしょ?
オリンピック終わるまでは、忙しいって!」とは言ったものの、千夏はオリンピックが終わっても、忙しさが変わる事はない。
オリンピックの後はパラリンピックがあり、その後も
殆どの種目で、選手権やワールドカップなどの大会が、そして冬季オリンピックとスポーツ担当の千夏に暇になる事はまず無い。
だが、煩い兄にはこう言うしか無いのだ。


「兎に角、忙しいから切るよ!」

『おい!コラっ待て!』


千夏は兄の言葉を無視し、話は終わりと受話器を置いた。


(はぁ…
未成年じゃあるまいし、2、3日帰らないからって騒がなくても良いじゃん!
お母さんにはちゃんとRibbonで連絡してあるんだから!
もぅ、信兄ぃーは小姑か⁉︎
やっぱり…百合が言う様に先にお兄ちゃん達をなんとかしないとダメだよね…)

電話を切り仕事に戻った千夏の側には、なぜかまだ木ノ下が居た。
まだ何か用かと見上げるが、何を言うでもなくただ側に立っているだけだった。


「…何時迄サボってるんですか?
チーフも仕事して下さいよ!
今日は流石に帰りますからね!
私が帰る時になって、チーフの仕事押し付けないでください!」


千夏は、昨日は日勤で今日は指定休になっていた。本来ならこの場に居ないはずなのだが、昨日帰り際に他チームの者が体調不良を訴え千夏がピンチヒッターをかって出たのである。


(これが終わったら帰るんだから!
じゃないと、お兄ちゃん達から電話の猛攻撃をきっと受ける。
もしかしたら、会社《ここ》に乗り込んでくるかも知れない…
あー怖い…)


結局千夏がパソコンの電源を落としたのは昼過ぎになってしまった。


(あぁ…
今から帰っても1時間ぐらいしか寝れないかぁ…
どうしようかなぁ… )


千夏は通勤時間片道2時間強の実家暮らし。
入社時は会社の近くに部屋を借りようとも思ったが、両親より兄二人に反対され、悲しい事に未だ実家から通っている。





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