この男、危険人物につき取扱注意!
木ノ下は冷蔵庫を開けると「水とビールしか無いけど」と言いながら、千夏に缶ビールを差し出した。
「…いや、飲みたいのは山々ですけど止めときます。まだ社に戻らないといけないんで…」
「…⁉︎ お前今日休みだろ?」
「ええ。休み入れてましたけど、伊藤さんに代わって欲しいって頼まれて…」
「またあいつか?これで何度目だ⁉︎」
(ええ、伊藤美咲ですよ‼︎)
「毎月1回は変わってますから、少なくともこれ迄に40回は変わってますかね?」
「サブのお前がもっと厳しく言わないから、調子に乗ってるんじゃ無いのか?」
(は?私?)
「…私だって厳しく言ってますよ!今日だって…」
話を途中でやめた千夏を、心配する様に木ノ下は「何かあったか?」と尋ねた。
「ええ、色々有りましたよ!
でも、そんな事はどうでも良いです!
この際ですから言わせてもらいますけど、チーフもっと仕事して下さい!」
「は?してるだろ?」
「してたら、サブなんて必要無いですよね⁉︎」
サブがいるのって、うちのチームだけじゃないですか??
それに、代理とは言えチーフは課長なんですから、課長の仕事まで私に押し付けないで下さい!
サブなんて名ばかりで、大した給料貰って無いんですからね!」
「なんだ給料に不満あったのか?それなら上に…」
「そんなこと言ってないです!
課長は課長らしくって言ってるんです!
シフト管理だって、本当は課長の仕事じゃ無いですか⁉︎
チーフがちゃんと仕事してくれてたら…」
(そしたら…今日の様な事はなくなるはず…)
伊藤美咲に休みを代わって欲しいと泣きつかれた時、木ノ下との関係を疑う言葉を投げられたうえ、千夏がサブである事を、面白く思っていない先輩からの心無い言葉も浴びせられていた。
「はぁ⁉︎」と言って、眉間にシワを寄せるのを見て、千夏は「それ!」と言って、木ノ下の眉間のシワを指差した。
「皆んなが話し掛けようとしても、能面の様な顔で眉間にシワまで寄せられたら、怖くて誰も近寄れませんよ‼︎」
「お前は近寄って来ただろ? 初めて会ったあの時から?」
(あの時は…篠原教授を護ろうとしただけで…
入社してからは、この人の何か秘めた影に…
どこか寂しさを感じた。
威圧感剥き出しにして、人を寄せ付けない様にしてるその理由が何なのか私は知りたかった。
だから…)
「出社しててもほとんどデスクに居ないし!
いつもどこでなにをやってるんですか⁉︎」
「俺は忙しいんだ!
だからサブのお前が居るんだろ?」
(あーもぅ!だんだん腹が立って来た!)
千夏はやっぱり飲むと言って、木ノ下からビールを奪い取った。
「グラス無いけど、そのままで良いか?」
「結構です!」
(グラスは無いのに、なんで…あれはあるの?)
この時、千夏は胸が締め付けられる様な気がした。