この男、危険人物につき取扱注意!

男は濡れた髪を拭き終わると、クローゼットから取り出したワイシャツに腕を通した。
その時、一瞬見えた横顔は千夏のよく知ってる人物だった。

(えっ⁉︎
嘘っ…チーフ…なの?)


見てはいけない物を見てしまったと思った千夏は、慌てて目を瞑った。
そして数分後、声を掛けられ目を開けた千夏の前には、いつもの様に髪を後ろへ流し固めスーツに身を包む木ノ下が居た。


(あれは…夢…だった…のかな…?
ううん…夢なんかじゃない。
あれは現実…間違いなくチーフだった…?)

半信半疑ながらも千夏は部屋の中を見渡し、他に人のいない事を確認した。


(やっぱり私達の他に誰も居ない…ってことは…
やっぱり…あれはチーフの…背中…?)


だが、現実だと分かっていても聞くのが怖い千夏は、なにも見なかった事にした。
そして、社へ戻る前にメイクを直したいから洗面所を借りたいと木ノ下に申し出た。


「ならシャワー浴びて来ればいい。タオルは出してあるのをつかっていいから」


(シャワー…?
男の人の部屋でシャワー借りるなんて無理!
ましてや、あんなもの見た後に…
早くこの場から逃げたいんだから)


「あっ…い、いえ…結構です」

「あー着替えなら、俺ので良かったら…」

(俺ので良かったらって…
チーフがトランクス派かブリーフ派か知らないけど、あんたの下着を私に使わせる気?
そんなの恋人のでもイヤだわ!)

「他人の下着なんて借りません!」

「下着?
俺が言ってるのはTシャツの事だが?」

「…えっ!…あ…」


勘違いした千夏は顔を真っ赤にしていた。


「なんだ、うさぎは男物履いてるのか?」

「ち、違う!
着替えは鞄に入ってますから、着替えは結構です!
シャワーも社に戻ってから使いますから!」


千夏はそう言うと、あまりの恥ずかしさで、メイク直しの事など忘れ、自分の荷物を持って逃げる様に玄関へと向かおうとしたが、木ノ下に腕を掴まれてしまった。


「良いのか?」

(え…?なにが良いの?)

木ノ下の含みのある言葉に、千夏は言葉が出てこなかった。


「そのキスマーク、どこで何してたのかって、また噂の的になるぞ?
見える場所に付けた覚えは無かったんだがな…?」

(っ⁉︎ キスマークって何⁉︎
嘘っ!それってチーフが私に何かしたって事??
…嘘でしょ?
だって私…記憶全く無いし、服もちゃんと着てる?)


木ノ下と何も無かったと思っていても、確信が持てない千夏は慌ててバスルームへと向かった。
バスルームの鏡に映る千夏の身体はいつもと変わりは無かったが、獲物を狙う鋭い目をした虎が千夏の頭から離れず、シャワーを浴びてる間も千夏の体を震わせ悩ましていた。
メイクをして身なりを整えた千夏は木ノ下に礼を言い、彼から差し出された水を受け取った。


「あ…ありがとうございます」

「どうだった? 初めて観た感想は?」

「え⁉︎」

(私が見たって知ってるの?)

「観たんだろ?隅から隅まで?」

「わ、私…何も…何も見てません!
今日の事は誰にも…誰にも絶対言いませんから…」

「なんだ確かめなかったのか?じゃ、一つくらい付けとけば良かったな?」と言って木ノ下は笑った。

(え…?
もしかして刺青じゃなくて、キスマークの事?)

「ふっ巫山戯ないで下さい‼︎ チーフまだ酔っ払ってるんですか?」

(こんなに饒舌なチーフ初めて見た。多分酔っ払ってるんだ!)

「馬鹿か?ノンアルで酔う訳無いだろ?」

(ノンアル?)

既にキッチンへ片付けられていたビール缶をよく見ると全て“ノンアルコール”と記されていた。

(えっ⁉︎)

「ノンアル??」

「当たり前だ。まだ仕事残ってるのに酒飲む訳無いだろ?」

(確かにそうだけど…
じゃ、私…
酔っ払って寝たんじゃ無くて、ただの寝落ち…?)




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