この男、危険人物につき取扱注意!

「…すいません…
盗み聞きするつもりは無かったんですけど…
いまの話…チーフが社長って…本当…なんですか?
なんで隠してたんですか⁉︎
どう言うつもりで、私達と…」


副社長が立ち去った後、千夏は謝罪するとともに真意を確かめるべく木ノ下へと詰め寄った。


「ああ…聞いた通りだ…」

「じゃ、チーフが社長で…社長がチーフって事ですか?」


思いもしなかった事に千夏の頭の中は混乱し、何をどう聞いたら良いのか分からなくなっていた。


「ああ」

(ああって…)

「どうして…今迄隠してたんですか⁉︎」

「…………」


何も答えてくれない木ノ下に、千夏は苛立ちを感じていた。


「じゃ、質問を変えます!
篠原教授は知ってるんですか?
チーフが社長だって事」

「…知ってる」

「初めから?」

黙って頷く木ノ下を見て、千夏は裏切られた気持ちになった。


(あの時、チーフは篠原教授に恩があるって言ってた…だから…私を採用したの…)

「チーフの会社だから…こんな私でも…」

(あの時…失敗したと思っていた私に『千夏っちゃんの内面の良さが伝わったんだよ?』…あの篠原教授が言ってくれた言葉も嘘っ…だったんだ…
チーフが言ってくれた『運命は、自分次第で変えられる。そして、自分の人生《みち》は自分で切り開くものだ』…あの言葉が嬉しかったのに…
まだ、私には私の望む人生《みち》を歩けるんだって…
なのに、副社長の面接も篠原教授の言葉も皆んな嘘…)

「あの時…
『後は自力で何とかしろ』って言ったのは…
本当は副社長の面接も必要なくて…」

「…………」

「そっか…」

「…うさぎ?」

「本来…ここは私の居る場所じゃ無かったんですね?」

(そりゃそうだ…
あの頃の私は、スマホさえ有れば事足りていたから…パソコンなんて必要無なくて…
だから触った事さえなかった。
DOYから内定貰うまでダブルクイックって言葉すら知らなくて…
琢兄に聞くまでマウスをねずみだって思ってたくらいなのに…
その私がIT企業に拾われる訳ないもんね…
自分でも分かってたのにIT企業なんて私に縁のない会社だって…)

「うさぎ…おまえ何考えてる?」

「前にチーフに言われた言葉を思い出してました」と千夏答えた時、千夏のスマホがバイブした。
相手を確認すると、それは会社の代表番号だった。

(え?なんで…?)

「はい、小野田です」

『あ、小野田さん、まだ一緒にしゃ…木ノ下君と一緒に居る?』

電話の相手は少し慌てた様子の副社長で、木ノ下の事を社長と呼びかけて言い直していた。

(もうバレてるんだから、別に言い直さなくても良いのに…)

「はい。まだ、ここにいらっしゃります」

『申し訳ないけど、電話代わってくれますか?』

千夏は分かりましたと言うと「社長(・・)、副社長からお電話です!」と言って木ノ下へ電話を差し出した。




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