この男、危険人物につき取扱注意!

たかがコーヒー豆の為に、それも自分の為に原産国のインドネシア迄契約に行ったと聞かされ、驚きを隠せずにいる千夏へ、坂下は話を続けた。


「ついでにお教えしますと、ジャコウネコはネコと言っても、ネコ科には属しません。
ジャコウネコは、見た目はどちらかと言うとハクビシンに似ています。と言うのも、ハクビシンがジャコウネコ科に属しているからです。
分類学的に言いますと、ネコ亜目ネコ科と、ネコ亜目ジャコウネコ科があります。
一般的に言う猫はネコ亜目ネコ科で、そして、ジャコウネコは、ネコ亜目ジャコウネコ科になるわけです。
ネコとジャコウネコは名前は似ていても結構遠い存在なんです。
ちなみに、ネコ科にはヒョウやトラとかも属しています」

(私だって、ヒョウやトラがネコ科なのは、勿論知ってましたよ?ライオンもね?
まぁ口には出しませんが!)

「…そうなんですか?
坂下さんって博学なんですね?
可愛いケーキ作ったり、物知りだったり、見た目とのギャップが…あ、すいません」

(また余計な事を…)

「いいえ、若にも言われてますから…
若の想い(・・)を、受け入れて下さり有難う御座いました」

(受け入れたと言うより、脅されて受け入れるしか無かったんですけどね?)

「あ、いえ。
チーフの思い(・・)は、私にとっても有難い事ですから」

(このまま組を解散しないでいると、いつ社長(チーフ)が反射の人間だと世間にバレるか心配だし、そうなったら私だけじゃなく、社員全員の運命にも関わる事だから…)

「それに、婚姻を無効にする事はいつでも出来るんですよね?
何処かに届け出れば、無かった事に出来るんですよね?」

「…いいえ。それは無理な事ですよ?
なにせ、お互い承諾の上での婚姻ですので」

「え⁉︎
だってこれは偽装結婚だからって…
いつでも別れる事は出来るし、✖️はつかないって…」

「結婚を解消するには通常離婚です。
しかし、事情によっては婚姻の無効や取り消しが認められる事もあります。
倫理的に、最初から婚姻が成立していなかった事を証明すれば良いのですが…」

「それは、どうすれば…?」

「婚姻の無効を届け出るには、明確な理由が無くてはいけません。
例えば、結婚出来る歳では無かったとか…
或いは、自分の知らないところで婚姻届が出されていたとか。
いずれにしても証明するのはかなり難しい筈ですし、あまり例の無い話です」

「…………」

坂下の説明を聞いて、千夏の顔色がみるみる悪くなっていった。

「あー確か、婚姻無効が認められたケースが有りましたねぇ」

「本当ですか⁉︎」

「ええ。
男性が訴えたモノです。
あれは確か女性が年齢をサバ読み過ぎていたとかで、婚姻無効の判決が出た裁判例が有った筈です。
女性は化けるのが得意ですからね?
しかし、貴女の場合訴えたところで無理だと思いますよ…私は。
若に脅されてサインしたと裁判所に訴えたとしても、こちらにはこんなテープも有りますし?」

そう言って、坂下はポケットからボイスレコーダーを出し録音したテープを千夏に聞かせたのだ。
そこには勿論、互いの利益の為に結婚する事を承諾し、乾杯するカップの音まで収録されていた。

(録音してたなんて…えっ?この部屋の何処かに…)

「酷い!」

「この様な事はしたく無かったのですが…
若を守る為に私が勝手に致した事で、これに関しては若は何も知れません」

坂下はそう言うと、千夏に頭を下げ謝罪した。

(それほどまでにチーフを大切に思ってるって事か…
仕方ない。
自分の利益の為でもあるんだし、✖️のひとつくらい我慢しますか?)

「…もう良いですよ!坂下さん頭上げてください。
互いの利益の為ですから!」

千夏は笑って坂下の謝罪を受け入れた。





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