婚約破棄された悪役令嬢は、気ままな人生を謳歌する
 国交締結を断ったとき、スチュアートはさすがに慌てた顔をしていたが、ラスカル大臣を追いかけてはこなかった。自国が危険に晒されているというのに、なんという危機感のなさだろう。

「――この国は、守るに値しない」

 ハイランド王国の強大化は防ぎたいが、こちらにもプライドというものがある。

 ラスカル大臣一行を乗せた馬車は、やがて王都の中心部に差し掛かった。どうやらバザールの最中らしく、馬車が渋滞している。ラスカル大臣は眉をしかめながら、窓越しに、人で溢れ返る市場を見渡した。

 通りのあちらこちらで敷物を広げ、国中から集まった人々が露店を繰り広げている。食べ物や衣類など、売られているものは店によってさまざまだ。

 ぼんやりとその様子を見ていたラスカル大臣は、ふと、ある露店に目を止める。敷物の端に置かれた"あるもの"が視界に入った途端、全身の血が湧き立つような感覚に襲われた。

「――馬車を、停めてくれ!」

 気づけば、そう命じていた。

 いつもは穏やかなラスカル大臣のただならぬ剣幕に、御者が慌てて手綱を引く。馬の嘶きとともに、雑踏の中馬車が急停止した。
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