婚約破棄された悪役令嬢は、気ままな人生を謳歌する
「ビクター様」

「……何ですか?」

 名前を呼ばれたことにビクターは赤面しつつも、まっすぐアンジェリ―ナを見つめている。

 アンジェリ―ナは、口元だけで満面の笑みを浮かべた。

「お目覚めになられたようで何よりです。それでは、即刻お城にお帰りくださいませ。ここは、罪を犯した者が閉じ込められる塔にございます。王宮騎士団長であられるあなたのようなお方が、いらっしゃるべきところではございません」

 さあ、とアンジェリ―ナはドアを手で差し示した。

 すると、ビクターは悲しげな顔をしたあとで、「城に戻る必要はありません」とボソリと言い放つ。

「騎士団長は退任しました」

「え……?」

 アンジェリ―ナが当惑を見せると、ビクターがにわかにこちらへと歩み寄ってくる。

 見れば見るほどに、面立ちの整った人だと思った。幻激レアルートにしか登場しないのが、もったいないほどに。

(エリーゼとビクターのスチルも見たかったなあ……)

 ヒロインであるエリーゼのルートに、ビクターは登場しない。彼はいわば、アンジェリ―ナ専用の後付けキャラなのだ。可能なら、前世に戻って制作サイドに文句を言いたいところである。
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