婚約破棄された悪役令嬢は、気ままな人生を謳歌する
 三周、四周、とこの作業を繰り返せば、カースイには見事な緑色の花が咲いていた。真っ赤な皮のラインと対比して、色鮮やかに目に映る。

「我ながら、完璧だわ」

 とてもではないが、素人仕事には思えない。
 やはり、アンジェリ―ナは手先が器用だ。ナイフは流れるように皮を削り、まるで機械で刻んだかのような山型や曲線を描いていた。

 あっという間にひとつ仕上がったので、今度はリンゴに雪の結晶模様のモチーフを刻んだ。見事な彫刻の施された果物が、二つ、三つとデスクに重ねられていく。

 そして日が暮れる頃には、ビクターが買ってきてくれた果物は、ドリアンを除いてすっかり底をついてしまったのである。

「まだだわ、まだまだ、足りない……」

 アンジェリ―ナは部屋を飛び出し、その足で上階にあるビクターの部屋の戸をノックした。

「ごめんなさい、ちょっといいかしら?」

 ドアを開ければ、ビクターはベッドの上で読書をしている最中だった。

「アンジェリ―ナ様? こんな夜更けに男の部屋にくるなど、どういうおつもりですか……!?」

 真っ赤になって動揺している彼を無視して、淑やかに中に足を踏み入れる。

「ビクター様、お願いがあります」

 にっこりと微笑み、胸の谷間が見えるようしなを作れば、彼の喉仏がごくりと動いたのが見えた。

「果物がまた欲しいのです。買ってきてくださいませんか?」

 アンジェリ―ナのために作られたキャラであるビクターなら、彼女のどんなわがままでも聞いてくれるだろう。はじめは彼の存在を疎ましく思っていたが、考えてみればかなりの利用価値がある。

 するとビクターはおもむろに立ち上がり、姿勢を正すと、片膝を折ってアンジェリ―ナに向けて厳粛な騎士の礼を披露する。

「愛する人の望みなら、たとえ最果ての地にだって参りましょう」

 最果ての地にはすでに来てるじゃない、というツッコミを心の中で抑え、アンジェリ―ナはますます笑みを深めた。

「ありがとうございます、ビクター様。あなたがいてくれてよかったわ」


 その日からビクターは、定期的に大量の果物を買ってくるようになった。

 アンジェリ―ナは一日中部屋に閉じこもり、せっせとフルーツカービングを施した。

 そして、気づけば部屋中が彫刻を施した果物でいっぱいになっていたのである。
 
 フルーツカービングを極めたアンジェリ―ナは、やがてある結論に達していた。
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