ラヴシークレットルーム Ⅱ お医者さんの彼との未来
「私、なんか上手くやれていないですよね?」
『・・・俺も美咲ぐらいの年頃に、同じようなこと、言ってたな。』
次から次へと発生する患者さんの変化
ウチの病院のようなハイリスク妊婦を受け入れている病院では
同じような変化ばかりではなく、むしろ同じような変化が続くことのほうが珍しい
「日詠先生も・・・ですか?」
『ああ。教科書上では学べていなかったことはたくさんある・・・途方に暮れたよ。』
だから、経験が少ない医師は臨機応変な判断や対応、患者さんへの適切な声かけができない、いつまでたっても、自分が治療できていないという感覚が頭の中、心の中に残る
「・・・・・・」
『少し休んでおいで。今は病棟も落ち着いているから。それに焦っても、上手くいかないことはある。』
そういう時は、敢えてひと呼吸置くことで
頭の中をリセットすることも大切
特に美咲みたいな、何事にも真面目に取り組むタイプの人間はおそらく休憩をとることが下手だから、周囲が誘導してやらなければいけない
「じゃあ、お言葉に甘えて行ってきます。」
『ああ、いってこい。』
先輩からの言葉にも従順になる真面目さもある美咲はペコリと頭を下げて、病棟を後にした。
そして、浜松から戻ってロクに休憩をとっていなかった俺もなにか食べるものを売店に買いに行くために財布を取りに医局の自分のデスクに戻った。
デスクの上には、産婦人科担当の医療秘書である片平さんが置いてくれたと思われる海外文献の書類が置かれていて。
売店に行くはずだったのに、文献の内容がずっと気になっていた俺は椅子に腰かけて目を通し始めた。
「いや~、財布を持ったまま、文献を読むなんて、勉強熱心ですね!」
人の気配を感じていなかった背後から聞こえてきた声。
感心しているようには聞こえないその声に、イラつきを感じずにはいられない。
「妹さん、じゃないそうですね~。お弁当を届けてくれる彼女。」
更にイラつき3割増しするような問いかけに
俺は振り向かずにはいられなかった。