ラヴシークレットルーム Ⅱ お医者さんの彼との未来
『・・・妻です。』
「誰の?」
『私の・・です。』
「日詠さん、結婚していたんですか?! 嘘っ!!! 俺、噂でも聞いたことないですよ!」
女性みたいに苗字が変わることがない俺は
わざわざ公言する必要もないと思っている
実際、まだ、婚姻届を区役所に提出していないわけだから
結婚はしていないし
『まだ、していないです。』
「じゃあ、俺、まだ」
『でも、近日中に婚姻届を提出する予定です。』
でも、目をギラつかせ始めたこの人には言っておかなければならない
「でも、近日中ですよね?俺にもまだチャンスがあるってわけだ。」
堂々と宣戦布告してくる
ついさっき、伶菜にわざとぶつかるような真似をする
この男には・・・
『・・・チャンスとか・・・ゲームじゃありませんから。だから、さっきみたいに彼女を困らせるようなこと、しないでください。』
あともう少しでずっと俺が望んでいた伶菜との関係を手にすることができるから
はっきりとそう釘を刺したのに
「俺にとってもゲームじゃありません。」
『えっ?』
俺を刺した釘をあっさりと抜き去るような言葉を投げ返してきた。
この男の
医師としての腕を知る機会はあった
でも業務をしていない時間帯のこの男のハチャメチャぶりも
知っている
俺が医局を不在にしている隙に
俺の弁当を勝手に開けて、俺の好物の伶菜お手製の筑前煮の椎茸を食べてしまう
そういうことを平気でする男だということも
「本気・・・ですから。」
そんな男が口にした
本気という単語は
普段はあまり他人には興味を示さない傾向が強い俺に
脅威という感情を初めてチラつかせた。