ラヴシークレットルーム Ⅱ お医者さんの彼との未来
Hiei's eye カルテ8:再び手放した主治医という肩書


【Hiei's eye カルテ8:再び手放した主治医という肩書】



『妊娠中でも喘息の薬は継続したほうがいいです。』


怪我した伶菜を連れてウチの病院の救命救急センターに付き添っていた俺の携帯電話が鳴った理由。

昨日、入院したばかりの妊婦である酒井さん。
妊娠高血圧症候群で入院となった彼女の喘息発作。
先に駆け付けた看護師の機転で吸入をしていたため、俺が病室へ来たときには発作は軽快していた。

「でも、お腹の中の赤ちゃんに影響が出るんじゃ・・・」


妊娠高血圧症候群に至った原因のひとつと思われる喘息増悪の原因が浮かび上がった。
自己判断による服薬中止だ。


『今、処方されている吸入ステロイド薬は、胎盤を通過しにくく、胎児への影響は少ないとされていますから、大丈夫ですよ。』

「・・・そうなんですか。」

『ええ。お母さんが苦しいと、お腹の中の赤ちゃんも苦しいですから・・・吸入ステロイドは継続しましょう。あと、ふたりとも早く楽になるように気管支拡張剤も処方しますから。この薬も問題ない薬ですから安心してください。ちゃんと経過も診ていますから。』

「安心しました。かかりつけの呼吸器の先生に薬のことを聴いても、ただ大丈夫とだけ言われて。これ以上聴くか?みたいな空気を感じて。でも心配だったんです。薬はお腹の中の赤ちゃんに良くないって聞くので。」


胸に手をあてて安堵の表情を浮かべた酒井さん。

呼吸器科の主治医に聴きたいことをちゃんと聴けないまま
喘息増悪の不安を抱えながらも
お腹の中の胎児は成長していく
本当に不安だったんだろう


『初めての妊娠で心配なこと、多くあるでしょう。気になったことがあったらいつでも聴いて下さい。いくらでもお答えしますから。』

「・・・私、主治医が日詠先生で良かったです。」


主治医が俺で良かったというありがたい言葉



それなのに、俺のココロの中でひっかかっているのは

”主治医は矢野先生じゃない、俺だ。”

救命救急センターの近くの廊下ですれ違った医師の
・・・整形外科の森村医師の、力強いその言葉



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