ラヴシークレットルーム Ⅱ お医者さんの彼との未来



「伶菜ちゃん、風邪でもひいたの?」

『いえ、そうじゃないんです・・・』

「じゃあ、もしかして・・・妊娠?!」


妊娠という言葉に、思わずマウスを動かす手が止まる。


「うわ~、早い、ついこの間、浜松でお泊りしてそういうことになったばかりでしょ?どれだけお盛んなのよ~ナオフミくんってば!」


いきなりいつものテンションに戻った福本さんのせいで、マウスに触れている人差し指の変な力が入る。

結果、以前、妊娠中だった伶菜を診ていた俺が記入した記事をクリックしてしまった。


《担当医:産科:日詠尚史:診療情報提供書》
 

伶菜に転院を勧めた東京医科薬科大学宛てへの診療情報提供書の記事
彼女の主治医を自ら降りた俺が最後に記入した記事だ

それをきっかけにその時の自分を想い出す

自分の手で救ってやると強く誓った伶菜を救うことをあきらめたその時
一番守りたい人を守れないやるせなさから
医師であり続ける意味がわからなくなったその時

それから時間が流れ、
主治医と患者
血の繋がらない兄妹
そういう関係を経て
もうすぐ夫婦になるという伶菜と俺

主治医という立場ではなく
夫という立場で彼女を守ろうと心に決めたはずの俺なのに

なぜ、今、
突然の怪我で痛がっている伶菜を
自分の手で助けてやれないんだろう?

今、彼女がどういう状況であるかも
自分の目で直に確認できないことにもがっかりしている俺がいる

『だからそのための電カルだ。』

このままじゃダメだと自分に言い聞かせた俺は自分が入力した過去の記事を閉じて、今日の日付のカルテ記事を開いた。


7:59

担当医:整形外科:森村優

S) 指が曲がらない。力が入らない。
O) ガラスによる切創エピソードあり。
  Lt. FDP(Ⅳ)(Ⅴ)ZONEⅡ rapture suspect+
A/P) operation FDP 6-strand suture ⇒ 本日よりOTにてEAM start







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