ラヴシークレットルーム Ⅱ お医者さんの彼との未来
手術室5番の入り口の前で足が止まったままの私の耳に入り込んできたメロディー。
それはどう聞き返しても
こぶしがガンガンに効いている、ド演歌だった。
「森村先生~。今日、矢野先生がいらっしゃらないからって、BGM、演歌ですか?そんなのアリ?」
「おうよ!今朝はいつもよりも手術開始が早いしな。演歌、いいだろ?コブシが背筋を刺激してピンと伸びるだろ?」
「えーー演歌ぁ?でも、いつもみたいにクラッシックに変えますよ。」
「なんだ、残念だなあ・・・」
姿は見えないが、熱のこもった口調で演歌の効果を口にする森村医師の声と
それに対してブーイングをあげていた看護師さんらしき声が聞こえてきた。
手術室内のBGMが演歌
TVドラマはもちろん、知人の話とかからもそんな話聞いたことがない
だから、看護師さんがブーイングするのも無理はない
でも、この人が・・・何を考えているかわからないこの人が仕切る手術室では、、、あり得るかも
緊急呼び出し用携帯電話の着信音もゾウの鳴き声にしてるぐらいだしね
『はあぁぁ』
私はこんなにも怪しい雰囲気を醸し出している人が本当に自分の手を完璧に治してくれるのか疑問に思うとともに半ば呆れ気味に大きな溜息をつく。
「おっ、来たねッ。そんなトコロで溜息ついてると、幸せが逃げてくぞ!早く、中、入って来い♪」
緑色の手術着に同じ色の帽子にマスク、足元には白いゴムサンダル
見慣れたそのスタイル。
一瞬、私の、ダイスキな人が目の前にいるのかと思った。
でも、聴覚は正直。
私の耳に滑り込んできたその声は
私のダイスキな人の・・低くて穏やかな心地いい声なんかじゃなくて
なんともオトボケな調子の軽い、あまり心地いいいとは言えない声。
視覚では騙されたけれど、聴覚では騙されなかった。