ラヴシークレットルーム Ⅱ お医者さんの彼との未来
今、森村医師
笑った?!
「最後までって・・・その言葉どおりですが。」
さっきまであんなにも丁寧な口調かつ真摯な態度であった森村医師なのに
この時の彼は、いかにもナオフミさんをコバカにするように笑いながらその返事を口にしていた。
そんな彼の対応によってなのかは定かではないが
眉間の皺が更にクッキリと深く刻まれてしまったナオフミさんは
「リハビリが終わるまで、そこまで彼女を見守りたい・・・そう解釈すればいいんだね?」
口調までも明らかに不機嫌になっていた。
仲がいい人以外の前で、ナオフミさんがこんなにもハッキリと不機嫌な空気を漂わせるのを私はこの時に初めて見た。
そんなナオフミさんの変化にも森村医師は動じることなく
「ご想像にお任せしますよ、日詠先生。」
そう言いながら明らかにニヤリと笑った。
私の直感が正しかったことを示しているかのように
何かをたくらんでいるような 意味深な笑みを浮かべながら。
「・・・・・」
そんな森村医師を目の当たりにしたナオフミさんは
黙ったまま唇をギュッと噛み締めた。
彼の心情を確かめたくて、
自分の視線を彼の唇から彼の瞳に移動させた私。
私の目に映ったその瞳は
森村医師の瞳の奥を鋭く捉えている。
ピピピピッ・・・
そんな中、ナオフミさんの白衣のポケットで鳴り響いていたPHSの着信音。
ナオフミさんは白衣のポケットに右手を突っ込んだけれど
PHSを取り出そうとはしなかった。
「日詠さん、電話、出たほうがいいですよ。きっと産科病棟からの緊急コールですからッ!」
森村医師は相変わらずの笑みを浮かべたまま
ナオフミさんに電話に出るように促している。
それでもナオフミさんは電話に出ようとはしなかった。
「彼女は俺に任せていただければいいですから、日詠さんは産科のほうへ向かってあげて下さい。」
「・・・・・・・・・」
「産科医師としての責務を果たすべきです!」
PHSに出るそぶりを全く見せないナオフミさんに対して森村医師は強い口調でそう訴えた。
「・・・・・・・・・」
唇を更に強く噛んだ上に目をしかめたナオフミさんは
黙ったままとうとう白衣のポケットからPHSを取り出した。
ピッ!
「・・・ハイ、日詠です・・・わかった、すぐ行く。」
感情を押し殺すかのように目を閉じて低い声で電話に応対したナオフミさん。
その様子を森村医師が右手指で口を軽く覆いながらじっと見つめている。
その瞳もさっきまでのナオフミさんに負けないぐらいの鋭さを放っている。
ピ、ッ
ナオフミさんがおもむろにPHSを切る音がゆっくりと病室内に響いた。