ラヴシークレットルーム Ⅱ お医者さんの彼との未来
そして彼はPHSの角を額に押し当てながら再び目を閉じたままなかなか動こうとはしない。
おそらくかかってきた電話の相手はナオフミさんの手を緊急で必要としている筈なのに。
『・・・・・・・・』
彼は動こうとはしない
いやそうじゃない
彼の苦しさを秘めたこういう表情から考えると
正確に言えば
動けないんだ
それは
手の怪我をして手術を受けた私が心配で仕方ないから?
それとも
私の主治医を引き受けようとする人が現れたから?
もし、彼が動けない原因が後者ならば
私にはどうしようもすることができない
けれど
もし、その原因が前者であるならば
私が動けなくなっている彼の背中を押してあげること
それぐらいはできるかもしれない
本当は一分、一秒でも長く自分の傍にいて欲しい
でも
それは私の我儘なんだ
そんなひとりよがりな我儘で
多くの人が必要としている産科医師の彼を引き留めてはいけない
人の命と自分の願望
それらを天秤にかけたら
誰もがみな、人の命が重いと口にするに違いない
私自身だってそう思うから・・・
『私なら大丈夫です。そんなに痛みもないし。それにリハビリもキッチリやらなきゃいけないみたいだから、森村先生に主治医になって貰ったほうがいいかな・・なんて・・・思ってます。だから、ナオ・・・日詠先生は妊婦さんの診療に集中して頂ければと
思います。』
私はそう言いながらなるべく自然に笑うように心がけた。
その笑顔ひとつで自分の本当の想いを覆い隠した。