ラヴシークレットルーム Ⅱ お医者さんの彼との未来
Hiei's eye カルテ10:厚すぎるドア
【Hiei's eye カルテ10:厚すぎるドア 】
「大切な人・・・ですか・・・この手術室内で手術を受けているのは。」
伶菜が手術を受けている手術室の前。
松浦さんというスタッフは驚いた表情で俺に問いかける。
驚いても無理はない
手術室総合入口ではなく、ドアを開けると手術機材、そして患者が横たわっているはずの手術室前に人が立ち続けていることなんてあり得ない
おそらく彼も伶菜の手術に必要なスタッフとしてここに呼び寄せられたはずだ
必要な人間にはなれない俺とは違って・・・
彼から見れば、今の俺は明らかに怪しい人物
「大切な人であるなら、心配ですよね。医療の知識がある立場なら尚更。」
『・・・・・・』
「しかも、リハビリスタッフの僕でも耳にしたことがある、神の手を持つ産科医師である日詠医師なら尚更。」
『・・・・そんなこと・・・・』
「でも、僕は信じています。整形外科医師・・・中でも本当に細かい手技が必要不可欠とされる手の外科医師である森村医師を。」
彼は、揺るぎない瞳で俺にそう訴えかけてから、丁寧に会釈して手術室内に入っていった。
そして、再び閉まった手術室出入口の銀色のドア。
以前にもあった
ドア越しの彼女を気にかけたことが・・・
それは
妊娠中だった伶菜のお腹の中にいた祐希が心臓病に罹患している疑いが発覚し、その心臓病に対応できる心臓血管外科医師がいなかったこと、そして主治医だった俺自身のスキルを自分が疑ってしまったことによって、東京の大学病院に転院を勧めた時
そして
自分は彼女の兄であったことを初めて告げた時だ
その後、彼女にもう何もしてあげられない不甲斐なさから、彼女の前から姿を消した俺は、診察室に置き去りにしてしまった彼女を奥野さんや福本さんに彼女のケアを任せ、隣接する処置室のドアにもたれかかり彼女の様子を窺った
その時は、ドアの隙間から、彼女達の前向きなやりとりを聞き
何もできない悔しさを感じながらも安堵することができた
でも、今は・・
分厚いドアに遮られ、中の様子を窺うことなんて到底無理だ