ラヴシークレットルーム Ⅱ お医者さんの彼との未来
ご想像って何だ?
整形外科の治療終了はどのような状態になったらなんだ?
皮膚縫合部の抜糸が終わったらなのか?
腱縫合部の再断裂のリスクがなくなった時点なのか?
リハビリフォロー終了時までなのか?
それとも・・・
ダメだ
整形外科医師でない俺が想像するにも限界がある
医学的な範囲を越えて
プライベートな範囲にまで踏み込んでくる
もしかしてそんなことまで・・・
「日詠さん、電話、出たほうがいいですよ。きっと産科病棟からの緊急コールですからッ!」
「彼女は俺に任せていただければいいですから、日詠さんは産科のほうへ向かってあげて下さい。」
ご想像というワードの答が出てこないせいで、胸ポケットの中で鳴り続けるPHSを放置せずにはいられない俺を相変わらず余裕な顔で電話応対を促す彼。
更に追い打ちをかけるような
「産科医師としての責務を果たすべきです!」
彼のその一言。
それだけではなく、心配そうな顔をしていた伶菜からの
「私なら大丈夫です。そんなに痛みもないし。それにリハビリもキッチリやらなきゃいけないみたいだから、森村先生に主治医になって貰ったほうがいいかな・・なんて・・・思ってます。だから、ナオ・・・日詠先生は妊婦さんの診療に集中して頂ければと思います。」
俺の背中を押そうとするその言葉によって俺は
森村医師から俺に投げかけられた ”ご想像” に対する答探しがタイムオーバーであることをようやく覚った。
更に、産科医師ではなく、整形外科手の外科医師である森村医師を選ぶような伶菜のその言葉で俺は、
彼女の力になれていない自分
彼女に選んでもらえなかった自分
それらによって無力感しか感じられなくなっていた。
そんな俺はこの時、唯一、自分にできたこと。
それは
彼女の婚約者としてのプライド・・・それを
「彼女を・・よろしくお願いします。」
この言葉に置き換えて、森村医師に対し予防線を張ることだけだった。