ラヴシークレットルーム Ⅱ お医者さんの彼との未来
その後、午後予定していた手術を終えてNICU(新生児集中治療室)へ向かう途中に小児科病棟を通りかかった。
その時、病棟に2つあるプレイルームのうちの小さなプレイルームの前で立ったままでいる伶菜の姿を見つけた。
声をかけようと思ったが、あまりにも真剣な顔でプレイルームのほうを見ていた彼女に気軽に声をかけられなかった。
何を見ている?
そんなにも真剣な顔で・・・
小児科プレイルームという特別な空間で
伶菜は何を見ているんだ?
それを知りたい俺は数歩前に進んだが、集中している彼女は未だに俺の存在に気が付かない。
俺は彼女に気がついてもらうことを一旦諦め、プレイルームの中の様子を窺う。
するとそこには持続点滴をしており、毛糸の帽子を深々とかぶった少女と彼女の話に穏やかな表情で耳を傾けている看護師の姿があった。
再び伶菜の斜め横顔に視線をずらすと、下唇をきゅっと噛みながらじっと彼女達を見つめている。
聞こえてくる会話は、余命が長くないことを自覚しているかもしれない少女が手話を習って人のために役立ちたいというような会話。
命と向き合うことをやめようとしたことのある伶菜にとって
命と向き合いながらも、社会貢献をしようとしている彼女達の会話は胸に響いたのかもしれない
そう感じた俺は、俺の存在に気がつくことで、伶菜の気を逸らしてはいけないと思い、彼女に声をかけないままその場を後にした。