ラヴシークレットルーム Ⅱ お医者さんの彼との未来
Hiei's eye カルテ14:先輩イエローカード
【Hiei's eye カルテ14:先輩イエローカード】
昼食後、NICU(新生児集中治療室)へ向かう途中に通りかかった小児科のプレイルーム前で立っていた伶菜の様子が気になって俺は一旦、足を止めていた。
しかし、何か考え込んでいるらしい伶菜の邪魔になってはならないと、彼女に声をかけずに、目的地であったNICUのほうに向かって再び歩き始めた。
NICUでは2週間前に早産で生まれ、1700gと若干小さめに生まれた新生児のその後の経過を診ながら、そこで付き添うお母さんの様子も見る。
その新生児の経過は順調なようで、そのお母さんも少しずつ表情が明るくなってきているのを確認できた俺はようやく安堵することができ、NICUを後にした。
『さ、時間が少し空いたし、手の外科の勉強するかな。』
隙間時間を見つけては、専門外である手の外科の勉強
図書室からかりてきた手の外科関連書籍が分厚い物ばかりで持ち運びができないため、それを置いてある医局の自分のデスクまで戻るという手間が増えている
『手の外科概論が理解できたら、次は屈筋腱損傷の治療と・・リハビリも押さえておかなきゃな。』
それでも伶菜の治療に関する不安を一緒に共有してなんとかしてやりたいという想いが強くなっている俺はその手間を惜しむことなく医局に向かう
次の業務の予定まで10分しかない
それをPHSの時計表示で確認した瞬間だった。
「日詠先生、あの・・・」
背後から美咲に声をかけられた。
急患が来て俺を呼ぶにしては、緊迫感が伝わってこない
それどころか、俺の様子を窺うような、何かを伝えたそうな、そんな声色
「あの、私・・・ようやくこのまま産科に残ろうという気になってきました。」
美咲の前向きな決意表明
浜松で呼び出された時にはどうなるかと思ったけれど
ここ最近、自分から患者へ向かっていくようになったことで
やっていけるという自信を得たのだろうか
ちょっとオーバーワーク気味なのは気になるところだが
俺も美咲ぐらいの頃はがむしゃらにやっていたから
体調を崩さない程度なら大丈夫そうかな
引き続き、許容量オーバーにならないように気をつけてみてやらないといけないけれど・・・
美咲のことを安堵しながらも引き続き注意が必要であることを改めて認識した瞬間、再び、俺に何か伝えようとしている彼女。