ラヴシークレットルーム Ⅱ お医者さんの彼との未来




あまり顔を合わせたくなかった相手の前でついつい息を呑んでしまった私。

そんな私と顔を向かい合わせる格好となった森村医師はいつになく真剣な表情で口を開いた。



「一昨日、ガラスの破片による裂傷によるRing、Little FDP FDS ZONE Ⅱ raptureで、FDSは裂傷具合がかなり激しかったのでFDPのみsutureしました。FDP腱癒着予防目的にて後療法はEAEが適切かと思われましたので、今朝から早速、松浦クンのところでsprintを作成しEAEを始めています。」


「そうか。高梨さん、ちょっと、少しだけでいいから指を握るように力入れてみてくれる?」



先ほどと変わらず真剣な表情のまま矢野医師に報告をした森村医師。

森村医師の報告が全くと言っていいほど理解できずに首を傾げるしかなかった私に、矢野医師は彼の手で自分の左手指を全て曲げてくれた状態のままそう告げた。


手術前、自分の思うように曲げられなかった薬指と小指。
手術後も禁止されていた指を自力で曲げる動き。


それをやってみせてと促されたのに
私はすぐにそれをやることができなかった。

ベテラン医師がやって見せてと言っているのに。



自力で指を曲げても本当にいいのか?
縫った腱が切れてしまわないのか?

私を襲ったそんな不安。


どうしよう・・・・・




「・・・・大丈夫だよ・・・やってみせて。」



森村医師がこれまた珍しく柔らかい笑みを浮かべながらそう囁いた。




森村医師の言動を目の当たりにして、不思議と不安がスーッと消えていった私は矢野医師に指示された通りに指を曲げる方向に力を入れてみた。



「ちゃんと力入るね!lagもなさそうだし、順調だね。高梨さん。」

『・・・あっ、ハイ・・・おかげさまで。ありがとうございます。』



なにがなんだかワケがわからなかったけれど、矢野医師が口にした“順調だね”の一言についつい舞い上がってしまった私は声を上ずらせながらお礼の言葉を矢野医師に投げかけた。




「ハハハ、お礼なら森村クンに言ってあげて下さい・・・あっ、そうだ。僕、産科の日詠医師からキミの主治医になって欲しいという院内紹介状を受け取っていたんだけど、森村クンにお願いすることにしたけど・・・よかったかな?」


『・・・あの、私、森村医師が主治医だと既にお聞きしていたんですけど・・・』



豪快に笑った後、私に事後報告を交えてそう問いかけた矢野医師に対して逆に問い返した私。

てっきり森村医師が主治医になっているものと思っていた私は拍子抜け状態。



「それなら、そのままでいいから・・・森村クンがどうしてもキミを担当したいって言うんだもん」

「矢野先生!」





< 212 / 542 >

この作品をシェア

pagetop