ラヴシークレットルーム Ⅱ お医者さんの彼との未来
矢野先生の言い訳を制止するかのように
毅然とした態度で彼の名を呼んだ森村医師。
「いやあ、僕も手の外科の専門医なんだけど、得意分野は骨腫瘍の治療なんでね・・・森村クンならキミのような腱損傷を得意としているから彼に任せても大丈夫と思っていますから・・・・じゃあ、森村クン、僕は隣の部屋の患者さんの様子を診てくるから、後、宜しくね!それでは、高梨さん、失礼します。」
森村医師の態度にたじろいだ様子の矢野医師はそういい残し、手に持っていた私のプラスチック装具と包帯を森村医師に手渡ししてからさっさと病室を後にしてしまった。
そしてこの騒ぎの中、平然な顔をしながら昼寝をしている祐希がいるものの、実際のところ森村医師とふたりきりとなった私。
私、今突然、自分の知らないトコロでのやり取りを聞かされて、なにがなんだかよくわからなくて混乱してるし
なんか森村医師も、いつもと違う雰囲気だし
はぁ~、今度こそどうしよう・・・
なんて話しかけたらいいのか
「・・・あの・・さ」
『な、な、何ですか?』
「だからさ、矢野先生はさ・・・俺がキミの手術してた時、学会に出かけていたからよく事情がわかってないというか・・・・」
突然バツが悪そうにそう口にした森村医師。
回診前の私なら、森村医師とどう言葉を交わそうか戸惑っていただろうに
回診後の今は、私よりも森村医師のほうが戸惑っているように思われた。
『別に私は構いませんけれど・・・森村先生が主治医でも・・』
いつもは彼にからかわれっぱなしの私。
ここぞとばかりに余裕がある自分を彼に見せ付けようと涼しげな態度でそう言ってみせた。
本当のところは
さっき彼が真剣な表情でテキパキと報告をする姿を見て
・・・この人に手術をして貰ってよかったと思った
・・・この人にこのまま診ていて欲しいと思った
でもそんなコト、素直に言えないよ
いつも彼とはぶつかってばかりいるから
そんなコトを口にしたら
彼のいつもの勢いが戻ってきちゃいそうだし・・・
ポコッ!
『痛ッ!!!!!』
いきなり頭を軽いモノで叩かれ右手でそこを押さえながら悲鳴を上げた私。
「やれやれ・・・俺しかいないだろッ!キミの手を治せるのは!俺が主治医でもいいじゃなくて、俺がいいと言えってば!」
森村医師は私の頭を叩いた犯行用具らしき私のプラスチック装具を彼の左手にポンポンと繰り返し叩き当てながら、軽く私を睨みつけていた。
『・・・・はっ?!』
「じゃないと、もう一発、お見舞いしてやるぜ、レ・イ・ナ♪」
今さっき、戸惑っている感じだった森村医師だったのに
ニヤリと不敵な笑みを浮かべた彼のいきなりの豹変ぶりに
自分の企みが浅はかだったことを感じずにはいられなかった私。