ラヴシークレットルーム Ⅱ お医者さんの彼との未来
『・・・はあ?』
じっと私を見つめた後にニヤリとイジワルな笑みを浮かべながら悪態をつくという・・・いかにも彼らしい様子を目の当たりにし拍子抜けしてしまった私はいつものように眉間にクッキリと皺を刻みながらその一言を投げかけた。
「日詠さんの名を出せば、絶対ムキになってくるかと思ったのにな・・・“余計なお世話です!私達の関係、上手くいってますから!”とか言ってくれると思ったのにな・・・・なんか俺まで調子狂うし、ガチンコで言い合うことができなくてつまんねー。じゃ、俺、行くわ。回診中だし・・」
彼は手術着のポケットからおもむろに白色のテープを取り出して手でそれを千切り、体を前方に屈めながらキレイに巻きつけた包帯の端に丁寧に張りながらそう呟いた。
そして、再び上体を起こして私のほうに背中を向けながら病室の出入り口のほうへ歩き始めてしまった。
ムキになるって
ガチンコで言い合いできないって
私を挑発しただけなの?
せっかく実は“いいひと”かもなんて
思い始めてたのに
私の心をここまでグラグラさせといて
許せない!!!
『最低、最低・・・アナタなんてサイテー!!!!!』
私は彼に対して背中越しに罵声を浴びせた。
自分の手指の腱を縫ってくれた恩人であることなんかすっかり忘れるぐらい私は頭に血が昇りきっていた。
そんな罵声を浴びせられた彼はというと
ゆっくりと振り返り、再びニヤリと不敵な笑みを浮かべおもむろに口を開いた。
「おっ、そうこなきゃな!じゃあ、自主トレーニングリハビリ・・しんどいだろうけどサボるなよ!またな♪」
「やるわよ、やるわよ、リハビリ、ガンガンやってやるわよ!そんな台詞、二度と言わせないくらいまで!」
いつもの人をおちょくるような口ぶりでそう言った彼に対して
いつもみたいに売り言葉に買い言葉状態の私。
「おう!期待してるぜ♪」
そう返事をした彼は再び前を向い右手をひらひらと振りながら病室から出て行ってしまった。
罵声を浴びせてしまうぐらい頭に血が昇っていた私なのに、この時の私はなぜか松浦先生に教えて貰った自主トレーニングを早速始めてしまったぐらい
モヤモヤとしていた気分がスッキリとしてしまっていた。
本当に森村医師って、何、考えてるかわからない
でも、もしかしてあんなにモヤモヤしていた気分がスッキリしたのは
彼といつものように
ガチンコで言い合いをしたから、かな・・・?
今まで私、森村医師と会話していると
あまりにも人をおちょくるような発言やオレ様な発言が多かったりして
“イヤなヤツ!” なんて思いがちだったけれど
もしかしたら、こういうコミュニケーションのとり方もアリなのかな・・・?
そう思ってしまった私は
彼の・・森村医師の心の内に潜んでいる真意を特に深く探ることなく、あんなに賑やかにしてもまだ昼寝をしている祐希の隣で自主トレーニングに没頭し始めた。
そんな私が彼の真意を知るのはもう少し後のコト。