ラヴシークレットルーム Ⅱ お医者さんの彼との未来
『よかった。寝てる。』
そっと開けたドアをそっと閉める。
普段、気にも留めない足音にも細心の注意を払う。
伶菜の寝顔。
祐希の寝顔。
むくみ悪化防止目的で左腕を吊り上げられた伶菜と
布団を蹴飛ばして眠っている祐希
ふたりの寝相に胸が締め付けられる自分がいる。
『何もしてやれていなくて、ごめんな。』
祐希に布団をかけてやってから頭をそっと撫でる
伶菜の頬に触れてから、触れた部分に唇を寄せる
昨晩とほぼ同じ自分の行動が
いつまで続くんだろう?
『早くウチに帰らせてやりたいな。』
伶菜、祐希の好きな食べ物を作って迎えてやりたい
彼女らが嬉しそうにそれを食べる姿を見たい
『頑張れよ・・・』
俺は今の自分の想いを込めたメッセージを白衣のポケットに入れたままだった付箋に書き入れて床頭台の上に貼り付けてから病室から静かに出た。
病室のドアを後ろ手で閉めようとした瞬間、
「あれっ?どうされました?」
見回り中の男性看護師にとうとう見つかった。
懐中電灯で天井のほうを照らしながら俺のほうに近付いてくる彼。
彼は更に病室前に掲出されている高梨伶菜と記入されている名札を一瞬照らし、再び光を天井のほうに向けた。
そして、今度は俺の白衣に付けられている名札に光を当ててから俺の顔を凝視した。
「産科ドクターが、こんな夜中にどうされました?」
どうしていたかって
・・・言えない
伶菜の頬に触れてキスしていたなんて
だが、目の前の彼
明らかに俺を不審者と思っている形相だ
『・・・恋人・・・。』
「は?」
『いや。婚約者なんです。』
「婚約者・・・」
再度、懐中電灯の光を俺の名札に照らされる。
その際、一瞬、その光が俺の目の前を通過し、目をしかめずにはいられない。