ラヴシークレットルーム Ⅱ お医者さんの彼との未来



久しぶりに明るい時間帯に屋外に出たせいか、やけに太陽が眩しく感じる。
怪我した伶菜を自家用車で病院に連れて来てから自宅へ戻っていなかったから、愛車は病院駐車場にずっと停めたままだった。


『開店時間前に着くことができそうだ。』


通勤時間帯でない午前9時。
もう何度も通ったことのある道路を迷うことなく運転し、目的地の駐車場にスムーズに駐車する。


「お待たせしていてすみません。これ、お品書きです。」

『あっ、どうも。』


開店を待つ行列に並ぶと、忙しい状況にも決して動揺していないような声のトーンでメニューを渡してくる和菓子屋の店員。


「期間限定いちご大福、ご試食どうぞ。」


行列必須のこの和菓子屋の、嬉しいサービスも慣れたものだ。

伶菜の喜ぶ顔見たさに
夜勤明けにここに並んでいるからことが多いから。


『ありがとう。』


爪楊枝が刺さった1/4個サイズのいちご大福を口の中に放り込む。
いちごのわずかな酸味と甘すぎない餡の絶妙な味が口いっぱいに広がり、昨晩までの疲れが吹っ飛んだ。


『まさに旬だな。病院食、飽きてきた頃だろうし、喜んでくれるだろう。』


伶菜の喜ぶ顔を想像しながら、箱に入ったいちご大福を転院から受け取り、すぐさま彼女達がいる病院へ足を向けた。



病院内の職員食堂で昼食を摂った後、鞄を再びデスクに戻すために戻った医局。
既視感のあるデスクの上。

美咲の抄録がまた置かれていた。
今度はクリップで留められた2枚重ね。
修正前の赤ペン添削してある抄録と修正後の赤ペン添削なしの抄録。



『どれだけ仕事、早いんだ、美咲は。』


彼女の仕事の早さには何か急ぐ理由があるかもしれない
そう思った俺は、すぐに修正後の抄録に目を通し、OKの文字と”質問対策もやり始めるように”とのメッセージを記入した付箋を貼り付けて、再び美咲のデスクへ戻した。


彼女のデスク上には俺もよく食べるミントタブレットだけでなく、栄養ドリンクまでもが置かれている。

『無理しなくても、抄録〆切りまでまだ時間あるのにな。』

数年前の、まだ医師として駆け出しだった自分に彼女を重ねてしまいふっと笑ってしまった。



そして、ようやく病院へ戻った最大の目的である、伶菜達にいちご大福を届けにいくために私服姿のまま彼女の病室へ向かった。

その格好だったせいか、それとも面会時間帯であったせいか
すれ違う人から特に声をかけられることなく、まっすぐに伶菜の病室へ到着。


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