ラヴシークレットルーム Ⅱ お医者さんの彼との未来
Hiei's eye カルテ18:先輩×婚約者レッドカード


【Hiei's eye カルテ18:先輩×婚約者レッドカード】







『屋上か・・・』



福本さんからの呼び出しコールで、すぐさま伶菜の病室から出て、わけもわからないまま屋上へ向かった。

その途中で通りかかった整形外科病棟の廊下。
そこで数人の患者達が集まってざわざわしながら、屋上が見える窓の前で空を見上げている。


『福本さんからの連絡って、産科の患者・・・だろうか?』



屋上
産科の患者
ドクターコール

福本さんも、そして、俺も
もう随分時が経つけれど
その場所、その対象者、その状況に
胸が引き裂かれるような辛い出来事がある



俺の後輩医師であり、美咲の先輩医師でもあった久保
彼が誤診を苦にして自ら命を絶った事

そして

産科医師、伶菜の父親で、俺の育ての親である
高梨拓志という人物が
産後うつで屋上から飛び降りそうとした経産婦を助けた際に倒れて
そのまま息を引き取ったという出来事



『何がなんでも助けなくてはいけない。』



あの苦しくて、やるせない、そんな想いを

俺と同じ想いを抱いていたであろう福本さんに
そして
遺影に写っている父親しか知らない伶菜に

抱かせてはならない



『絶対に誰一人傷つくことなく助けるんだ。』


俺はいつも操作し慣れているはずの屋上の錆かけたドアを手加減することなく勢いよく開けた。



真っ青な晴天の下、吹き荒れる強風。
足元が定まりにくい中、前傾姿勢でなんとか前進する。

その先に居たのは
予想してたピンク色の病衣姿の産科患者ではなく
髪をひとつに束ねた白衣姿の女性が、屋上の転落防止柵を両手で握ったままの女性。

見覚えがあるその後ろ姿。
強風になびいた白衣には、血痕と思われる汚れが所々付着していて。



『美咲!!!』



俺の声に振り返ったその女性は
憔悴しきった顔で俺のほうをじっと見つめた。



「あたし・・あたし・・・」



美咲はここ最近自らの申し出で連続出勤していた
昨日も休みではなかったはずだ
でも俺は昨日、美咲に院内で会った覚えがない
俺が知っていた彼女の足跡は彼女が書いた抄録
しかもそれは昨晩、俺のデスクの上に置いてあった

おそらく、産科業務をしながら、その間に抄録を作成していたのだろう
そうだとしたら、ここ最近、あまり眠れていなかったのかもしれない


寝不足のせいで
判断力とか現実検討能力とかが鈍っているのか?


でも、美咲は今、ここで働き始めたばかりじゃない
だから、寝不足という原因で屋上で何をし出すかわからないような真似をするだろうか?

とりあえず、彼女の想いをちゃんと聴いてやらないといけないと思った俺は、彼女を刺激しないようにゆっくりと歩を進めた。




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