ラヴシークレットルーム Ⅱ お医者さんの彼との未来



私はまだ温かさの残る唇を
そっと人差し指で触れながら

彼を見つめることしかできなかった。
いつものように反発する気力もなく。



「だから、また来る。レイナのとこに。」




そんな私に対して彼は

今まで聞いたことのないような甘い声でそう語りかけ、






グイッ!




「左手、下げたままだとすぐに腫れちゃうからな・・今度はキミの主治医として仕事をしに来るから。キミも早く息子さんを迎えに行ってやれ。・・・・じゃあ・・・な・・・・・。」




再びジンジンし始めていた私の左手を持ち上げて笑った。



その笑顔は私が今までに見た彼の中で一番・・・優しい顔をしていた。



そんな彼から私は一切目を逸らすことができなかった。
彼の姿が見えなくなるその時まで。



すべて完璧に兼ね備えていると思っていた自分の恋人に足りなかったモノを持っていたその人の姿が

見えなくなるその時まで
目を逸らすことなんてできなかった。



恋人に
ナオフミさんに足りないと感じられたモノ



それは





自分の目の前で

私のコトを

スキだという想いを

はっきりと言葉にする・・・・その姿勢




他人の前で

私という存在を

日詠尚史の恋人であるというコトを

ちゃんと認めてくれる・・・・その姿勢



それらを彼に求めるのは

私のワガママであるコトは




わかってる






でも



ナオフミさん
ワタシ、不安なの

いつも多くの人達から注目され続けているアナタだから
そんなアナタが私ではない女性を抱きしめた姿を目にしてしまったから



不安なの

もしかしたら
アナタが私と結婚しようと思ったのも
幼い頃に生き別れた妹であり、シングルマザーになってしまった私の境遇を哀れに思ったから?

それとも
自ら命を絶とうとした私をアナタが救い出してしまった責任感から?




そんなコトまでもが頭を過ぎってしまうぐらい

ワタシ、不安なの




だから


私がアナタに求めたいコトが

どんなにつまらないコトでも

どんなにどうしようもないコトでも



それでも



少しでもいい

その姿勢を見せて欲しい



アナタと共に幸せなミライを一緒に歩むのは
私でいいんだという安心感を


アナタ自身によって私に与えて欲しい



それって

やっぱり

私のワガママですよ、ね・・・?




そんなワガママを否定できないぐらいこの時の私は
ナオフミさんとの関係だけでなく、
森村医師との関係にも戸惑いを感じていた。








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