ラヴシークレットルーム Ⅱ お医者さんの彼との未来



今度は主治医として仕事をしに来ると言ってくれた森村医師に
自分がどう向き合っていいのかわからなくて。


それだけじゃなく、屋上から逃げるように立ち去ってから
その後、どうなったのかがわからないナオフミさんの様子が今頃になって気になってしまって。


気持ちが落ち着かなかった私はお茶でも飲もうとマグボトルが置いてある照頭台に手を伸ばそうとベッドから上体を起こした。



その瞬間


カチャン!!!!!!



金属同士が軽く擦れる音が薄暗く静かな病室内に響き渡った。


目を凝らして辺りを見回すと床上に置いてあったスリッパのすぐ横にオレンジ色の豆球の光に照らされ、ほんのりと光が反射している小さなハーモニカのキーホルダーが落ちていた。


それは
ナオフミさんから手渡されたモノ
昼夜問わず私の衣服のポケットの中に婚姻届とともに忍ばせていたモノ
私とナオフミさんを繋いでいてくれるであろうモノ


それがポケットの中からすり抜けて床上に落ちてしまったという
ほんの些細な出来事



それなのにその時の私は
その出来事が今の私とナオフミさんの関係を暗示しているみたいに思えてしまって。


そして、その偶然に起こってしまった出来事をなんとか掻き消そうと必要以上に慌てながらそのハーモニカを拾い上げ、ポケットの奥深くにそれを沈み込ませた。
もう二度と落ちることのないように。



『はぁ~・・・・』



私は大きく溜息をひとつついてから、再度照頭台にあるマグボトルに手を伸ばし温かいお茶を飲み再びベッドに横になった。
お茶を飲んだことでお腹の中はぽかぽかとしていたが、それでも眠りに落ちることはできなかった私。
白い天井を眺めながら、いつものようにポケットの中のハーモニカと婚姻届を握り締めた。


でもそれらを握る手に全然力が入らなかった。
その理由は自分でもわかっていた。




その理由・・・




それは
森村医師の想いを拒むことができなかったという
ナオフミさんに対する申し訳なさ。




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