ラヴシークレットルーム Ⅱ お医者さんの彼との未来
ようやく本当に処置をするんだと理解した私は、彼に言われるがままに手載せスタンドの上に装具をつけたままの左手を置いた。
「よしよし、いいこ♪」
『・・・いいこって?!』
またまた子供をあしらうような口調でイジワルな笑みを浮かべた彼に対してついついイラッとしてしまった私。
「しっ、今からガーゼ外してほんの少しだけ抜糸するから。今、左手にグッと力入れると、縫った腱が切れちゃうぞ。」
彼は相変わらずの軽い口調で私の左手の装具に取り付けられているテープを外し、あっという間に包帯とガーゼを外した。
“縫った腱が切れる”という半ば脅しのような言葉に閉口し、ただ彼がしていることを見つめるしかできなかった私。
そんな私と向かい合わせになっていた彼は
傷口を縫い合わせてあった硬そうな黒い糸の一部だけに消毒薬を塗り、そしてハサミを傷口に近づけた。
その様子を見つめていた私は
抜糸イコール痛いと思い込み、まだ傷口の糸にハサミを触れないうちに、左手を引っ込めようとしてしまった。
そんな私を横目で見ながら軽く微笑んだ森村医師はおもむろに口を開いた。
「・・・・オレがさ、キミに初めてお目にかかったのは、キミが左手を怪我して救急外来にやってきた時でもなければ、その前に医局付近でぶつかった時でもないんだ・・」
森村医師から語られたその言葉に
この時の私は驚かずにはいられなかった。