ラヴシークレットルーム Ⅱ お医者さんの彼との未来
Hiei's eye カルテ20:俺のしていることは悪あがきなのか?
【Hiei's eye カルテ20:俺のしていることは悪あがきなのか?】
屋上で美咲を助けて
医局付近の廊下で森村医師に抱きしめられている伶菜をみかけた日。
午後7時半過ぎ。
病院外来エリアにあるリハビリテーションセンター。
受付には誰もおらず、電気を消えている。
灯りが漏れていた部屋のほうへ移動してみたところ、そこには伶菜のリハビリ担当スタッフである松浦さんが待っていてくれた。
『申し訳ありません。』
「いえ。いつかこういうことがあるかもしれない・・・そう思っていました。」
『・・えっ?』
「オペ室(手術室)の前にいらっしゃいましたしね。高梨さんのオペの日。」
『ええ、まあ・・・』
彼とは伶菜の手術中に手術室前ですれ違った程度だったが、自分が手の外科を独学で勉強し始めた時に、いつかこの人から教わりたいと思っていた
業務の合間にそのチャンスを狙っていたけれど、
何も理解していないまま、彼に教えて欲しいと頼むのは失礼にあたる
そう思っていたから、なかなか彼に依頼できずにいた
けれども、伶菜のために自分ができることが今すぐにでも必要となった現在、
松浦さんの都合まで聴いて日程調整する余裕なんかない俺は、彼に頼るしかなかった
「それで、どんなご用件ですか?」
静かに俺にそう問いかけてきた松浦さん
おそらく30才手前ぐらい、落ち着いた雰囲気の男性
業務をテキパキとこなしそうな空気まで漂う
仕事ができそうな男だ
そんな彼がさらりと用件を聴いて来た。
『高梨さんのリハビリを教えて欲しいんです。』
彼は理由とかごちゃごちゃ言わずに単刀直入に用件を伝えても理解してくれる気がした俺。
実際に彼は俺に理由を聴いてこない。
でも
「リハビリに関する質問に正しく答えて頂けたら教えます。」
試されている
専門外の医師が気まぐれでリハビリを教えてくれと言っているだけなのかを疑われているようだ
しかも、挑発的な口調ではなく、用件を聴いて来た時と同様にさらりと聴いて来た
手の外科のリハビリ専門家であるハンドセラピストとして向き合ってくれている・・・そう感じずにはいられない
もし答えられなければ、僕たちの専門エリアに土足で踏み入るなとの無言のプレッシャーまでも
『わかりました。』
自分の手の外科の知識量に自信がないことによってここで引き下がったら、伶菜に何もしてやれないままだと思った俺は彼からの試問に受けて立つことにした。