ラヴシークレットルーム Ⅱ お医者さんの彼との未来


「大切な人のためにここまでやるんですね。ご自分の業務だけでもかなりお忙しいはずなのに。」

『・・・・・・・』

「日詠先生、ホント、シャイなんですね。こんな姿、高梨さんにも見せてあげたいです。」



今の自分を伶菜が見たらどう想うんだろう?

美咲を抱きしめていた俺が
その言い訳をしないで松浦さんからリハビリを教えてもらっているなんて
きっと訳がわからないだろう



『・・・それは勘弁してください。彼女、混乱しそうですから。』

「・・・わかりました。猪突猛進な森村医師とは対照的で大変ですね、高梨さんのこと。でも、これが日詠先生のやり方ってとこですね。」

『僕のやり方?』

「言葉では余計なことは言わず、行動で愛を示す・・・そんなやり方。」



松浦さんの、的確と言っていい俺という人間の分析
まだ彼と直接関わりをもってまだほんの十数分
その短い時間で、俺を把握してしまう能力の高さ

伶菜との関係を修復するために俺がしようとしていることが
いかに遠回りで、合理的ではないこと
それをも彼は理解しているんだろう



『・・・・不器用ですよね、自分は。ただ、悪あがきしてるだけかもしれない。』

「僕、個人的には好きですよ。悪あがき。でも、今、していることは、それじゃないと思いますけど。第三者視点から見たら。」

『そうでしょうか?』

「ええ、悪あがきどころか、口先だけで想いをいろいろ伝えるよりも、行動で態度を示す・・・そのほうが信用したくなりますけどね、僕は。」



松浦さんのその一言で俺は
今の自分の方法で前へ進んで、伶菜に向き合えばいい
そう思った。



今の自分の方法

それは
伶菜と同居している自分ができるだけ早くリハビリ方法を習得する
そして、自宅で松浦先生直伝のリハビリを伶菜に行ってやるように勧めていくことで
彼女が早期に退院し通院で治療を行えるようにするという方法

つまり
彼女が彼女らしく居ることができる自宅という場所で一緒に治療に立ち向かうということ

もっとズルくて情けない言い方をすると
主治医である森村医師が自由に出入りできるこの環境から1日でも早く彼女を連れ出し、独り占めにして誤解を解きたいということ


この時の俺は
不器用だろうと、悪あがきだろうと、みっともないであろうと
この方法でしか伶菜と向き合えない
そう思っていた。




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