ラヴシークレットルーム Ⅱ お医者さんの彼との未来





『はあっ?!!!そんなに私、笑えます?』


自分の顔が面白いと言われ、ヘコんでいたにも関わらず瞬時にカチンときてしまった私は眉間にさらに深い皺を刻み込み、笑いが収まる気配がない彼にやや強い口調で問い質した。



「ブフッ、だって、キミのその口・・・完全にタコだよ、タコ!!!!!」

『ひゃっ!!!!!!○△□×◇※・・・・・』



タコと言われてしまったその口を即座に右手で押さえ隠し、自分でも意味不明な言葉を口にしていた私。



自分の世界に入っている時の私の悪い癖
口を尖らせて考え事をするというクセ
ナオフミさん 曰く “アヒル口”
でも
人によっては“タコ”にも見えたらしい



“アヒル”

“タコ”



どちらにせよ
恥ずかしいその姿

それをこの人の前でもさらけ出してしまった私は
もうなにがなんだかわからない状態で




クイッ!!!





「よし、左手、ようやくゲット!!!!さあ、さっさと抜糸しよーっと♪」

『ちょっと、ちょっと、○△□×※・・・・』


さらに左手を掴まれた状態で、頭が混乱したままの私。



そんな私とは対照的に
森村医師は涼しげな表情を浮かべながら傷口に手際よくハサミを入れ、ピンセットで糸を4,5本と引き抜き、ガーゼの上にそれを並べた。


そういえば、帝王切開術後1週間で、病棟処置当番だった若手の産科医師によって施された抜糸という処置はかなり痛かったような記憶があったのに



『・・・・・・・・・・』



今、目の前で行われた同じ処置が
痛かったのか、そうでなかったのかを自分で認識できないぐらい

そして

声を出すことも忘れてしまうぐらい
それはあっという間の出来事だった。



パコン・・・・・



静かな部屋の中に響き渡る、銀色に輝く金属製の小さな容器の蓋が開けられた音。


森村医師はさっきまでの態度とは異なり何も語ることなく、その容器から消毒液らしき液体が染み込まれた小さな綿球をピンセットでつまみ上げ、私の左手の傷口にそれを優しく押し当てた。


その顔は

いつもの彼の態度からは想像できないぐらい
真っ直ぐで、そして頼もしい表情をしていた。




はあぁ・・・



その表情から目を離せずにいた私の目の前で
ひとつ大きな溜息をついた彼。





「オレ、さ、素面のキミをこうやってちゃんと手当てしてあげられるようになるなんて、あの時は思ってもみなかったな、オレ。」




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