ラヴシークレットルーム Ⅱ お医者さんの彼との未来
Hiei's eye カルテ23:うなされた夜と予防線を張った朝


【Hiei's eye カルテ23:うなされた夜と予防線を張った朝】






『何ひとつしてやれない・・・』




真夜中の整形外科病棟処置室にいた伶菜と森村医師。


彼女の治療もしっかりと行い、彼女を守り抜くとはっきりと口にした彼に敵わない
そう思わずにはいられなかった俺はもうその場にはいられなかった。


『なにやってるだろう、俺は・・・』



居場所がなくなった俺が行った先は医局の自分のデスク。
デスク中央に積み上げられた手の外科関連の書籍が目に入り溜息が漏れる。


『悪あがき・・・するはずだったんじゃないのか』


もうすぐ午前1時。
仮眠室へ向かう意欲も出ない俺は
それらの書籍をデスクの端にずらしてからデスクの上に体を伏せて目を閉じた。


それと同時に脳内に蘇るこれまでの伶菜と一緒に過ごした時間

それらのひとつひとつが
彼女との再会が色褪せていた俺の生活を再び鮮やかにしていってくれていた

俺にとって伶菜は
誰も代わりができない、もうなくてはならない人になっているのに
今の俺は自分を諦めたことで、伶菜のことも諦めかけている





伶菜にとって俺は今、どういう存在なんだ?


美咲を抱きしめていた俺を伶菜が目撃した後、
俺達は会話していない


俺が今、伶菜の傍でなくここにいるのは、
森村医師とのやりとりで劣等感を感じ身を引いてしまったからであって
伶菜がどうしたいのかを聴けていない


伶菜は本当に森村医師のことを
スキだと想っているのか?

冷静さを失い感情に負けてしまった今の俺
本当に今のままでいいのか?


『今からじゃ遅い・・のか?』



つい目を開けると
屈筋腱損傷のリハビリテーションと書かれた書籍の背表紙が目の前にあった。


”悪あがきどころか、口先だけで想いをいろいろ伝えるよりも、行動で態度を示す・・・そのほうが信用したくなりますけどね、僕は。”


松浦さんの言葉を想い出した。

まだ、俺は何もやってない
伶菜のために何もしてやっていない

今、懸命になって学んでいるリハビリも
彼女のことがスキだというはっきりとした想いを伝えてやることも



去る者追わなくて、失うことが怖い
それを、伶菜の元彼氏が彼女を連れて行こうとした時に
痛いほど感じたはずじゃないか

俺はまたそれを繰り返そうとしているのか?


『スキだって・・・・』


自宅でも俺が手伝えばリハビリできるようになる
スキだというその一言も伶菜に伝えて
その先の伶菜がどうしたいのかを
ちゃんと向き合って理解し合わなきゃいけないんじゃないのか?


そんな想いがずっと頭の中でぐるぐる巡りながら、うとうとしつつ、
とうとう朝を迎えてしまった。




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